・・・その上に余り如才がなさ過ぎて、とかく一人で取持って切廻し過ぎるのでかえって人をテレさせて、「椿岳さんが来ると座が白ける」と度々人にいわれたもんだ。円転滑脱ぶりが余りに傍若無人に過ぎていた。海に千年、山に千年の老巧手だれの交際上手であったが、・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・ 眼前にまざまざと今日の事が浮んで来る、見下した旦那の顔が判然出て来る、そしてテレ隠しに炭を手玉に取った時のことを思うと顔から火が出るように感じた。「真実にどうしたんだろう」とお源は思わず叫んだ。そして徐々逆上気味になって来た。「も・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・ 将校はテレかくしに苦笑した。 シャベルを持っている兵卒は逡巡した。まだ老人は生きて、はねまわっているのだ。「やれツ! かまわぬ。埋めっちまえ!」「ほんとにいゝんですか? ××殿!」 兵卒は、手が慄えて、シャベルを動かす・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・自分は何となく少しテレた。けれども先輩達は長閑気に元気に溌溂と笑い興じて、田舎道を市川の方へ行いた。 菜の花畠、麦の畠、そらまめの花、田境の榛の木を籠める遠霞、村の児の小鮒を逐廻している溝川、竹籬、薮椿の落ちはららいでいる、小禽のちらつ・・・ 幸田露伴 「野道」
・・・そして半分テレながら、赤ん坊の頬ぺたを突ッついたりして、大きな声を出して笑った。 帰り際に、「これで俺も安心した。俺の後取りが出来たのだから、卑怯な真似までして此処を出たいなど考えなくてもよくなったからなア!」 と云った。それか・・・ 小林多喜二 「父帰る」
・・・ ずんぐりした方が一寸テレて、帽子の縁に手をやった。 ごじゃ/\と書類の積まさった沢山の机を越して、窓際近くで、顎のしゃくれた眼のひッこんだ美しい女の事務員が、タイプライターを打ちながら、時々こっちを見ていた。こういう所にそんな女を・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・今は「テレグラフ」を取っておらん、「スタンダード」だ。この新聞は上品な新聞だからここへ出る広告なら間違はないと思って四月十七日の分の広告欄を読み始めると、存外営業的のが多くって素人家へ置きたいと云うのが少ない。しかしいろいろのがある。「宿料・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
出典:青空文庫