・・・詐欺をやる、ごまかしをやる、ペテンにかける、めちゃくちゃなものであります。だから国家を標準とする以上、国家を一団と見る以上、よほど低級な道徳に甘んじて平気でいなければならないのに、個人主義の基礎から考えると、それが大変高くなって来るのですか・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・ 私は半月余り前、フランテンの欧洲航路を終えて帰った許りの所だった。船は、ドックに入っていた。 私は大分飲んでいた。時は蒸し暑くて、埃っぽい七月下旬の夕方、そうだ一九一二年頃だったと覚えている。読者よ! 予審調書じゃないんだから、余・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・ その時向うから、トッテントッテントッテンテンと、チャリネルという楽器を叩いて、小さな赤い旗をたてた車が、ほんの少しずつこっちへやって来ました。見物のばけものがまるで赤山のようにそのまわりについて参ります。 ペンネンネンネンネン・ネ・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・ace tightly with a desire that she may be my “better half” and mine only.” 二十六日 夜、セミナー、雨降り、午後和田と ten sen store で baby・・・ 宮本百合子 「「黄銅時代」創作メモ」
・・・はっと気がついたら、茶の間で盛にオテテコテンテン、と陽気にオールゴールが鳴って居るのでびっくりした。家の目醒しは、引越し祝にN氏から贈られたもので、普通の目醒し時計のようにジジジジとただやかましくなるのではない。時間になると粤調、茉莉花とい・・・ 宮本百合子 「木蔭の椽」
・・・どんな作家達でも、革命の実践が教えた集団の価値、行動のテンポを自分たちの作品の中へ反映させずにはいられなかった。それは、世界のプロレタリア文学にとって新鮮な、生気あふれる豊富な前進であった。 当時ソヴェト同盟の民衆は、謂わば「俺等のあの・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・わきの小窓にかかっている紫っぽいところに茶の細い格子のある毛織地のカーテンと原稿紙の字とは大変美しく釣合って、稲子にさすがだといってほめられました。まるでお話ししながら、そこに全体の仕事を感じながら、自分も仕事をしているような居心地よさです・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・そして先頃赤しおで真珠をやられたとき東京の支配人に打った電文は「アスカラテンコウツカエ」でした由。テンコウは砂糖のうちでやすい、赤っぽいてんこ砂糖です。一風あるでしょう。息子さんはラスキンの研究家で、元オーキという婦人服やのあったところへ茶・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・政治と文化とを一貫して、世相を押しきったこのような潮流は、一九四九年度の毎日文化賞の準備調査、読売新聞社の良書ベスト・テンの調査などで、諸々批判のおこっている永井ものがトップをしめ、「宮本武蔵」や「親鸞」「風とともに去りぬ」「細雪」「流れる・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・その蜘蛛は藁しべに引かかったテントウ虫のように、胴ばかり赤と黒との縞模様だ。〔一九二五年十月〕 宮本百合子 「この夏」
出典:青空文庫