・・・ 色男としての歴史に於いて、かつて無かった大屈辱にはらわたの煮えくりかえるのを覚えつつ、彼はキヌ子から恵まれた赤いテープで、眼鏡をつくろい、その赤いテープを両耳にかけ、「ありがとう!」 ヤケみたいにわめいて、階段を降り、途中、階・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・柱の白樺の皮がはがれた所を同じ皮で繕って、その上に巻いたテープには「白樺の皮をだいじにしてください」と書いてある。なるほど、だれでもちょっとはがしてみたくなるものと見える。この車を引っぱる電気機関車がまた実に簡単で愉快なものである、大きな踏・・・ 寺田寅彦 「軽井沢」
・・・そうして星がちょうど糸を通過する瞬間を頭の中の時のテープに突き止めるのであるが、まだよく慣れないうちは、あれあれと思う間に星のほうはするすると視野を通り抜けてしまってどうする暇もない。しかし慣れるに従って星がだんだんにのろく見えて来る、一秒・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・船と埠頭の間に渡した色テープの橋の両側で勇ましい軍歌が起った、人々の顔がみんな酔ったように赤く見えた。誰も彼も意志の強そうな顔ばかりである。世の中にこわいものもなければ心配なことも何もないような人ばかりである。これらの勇士達はこれからどこの・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・よく調べてみると銅線の接合した所はハンダ付けもしないでテープも巻かずにちょっとねじり合わせてあるのだが、それが台所の戸棚の中などにあるからまっ黒くさびてしまっている。それをみがいて継ぎ直したらいくらかよくなったが、またすぐにいけなくなる。だ・・・ 寺田寅彦 「断水の日」
・・・これはたぶん横浜岸壁あたりで訣別の色テープの束の美しさを見て来てから考えたものらしい。「自分の知人A、B、Cの三人が同じ市の同じ町に住まっている事を、年賀状をより分けてみて始めて気がつく。しかしA、B、C相互になんらの交渉もない赤の他人・・・ 寺田寅彦 「年賀状」
・・・狸の子は大へんあわてて譜や棒きれをせなかへしょってゴムテープでぱちんととめておじぎを二つ三つすると急いで外へ出て行ってしまいました。 ゴーシュはぼんやりしてしばらくゆうべのこわれたガラスからはいってくる風を吸っていましたが、町へ出て行く・・・ 宮沢賢治 「セロ弾きのゴーシュ」
・・・ 日本のあらゆる女性が手にもって暮して来た物指やテープをハトロン紙の上に走らせるばかりでなく社会の上に、わたしたちの人生とその建設のために使うことを知るようにならなければならないと思う。〔一九四七年十月〕・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
出典:青空文庫