・・・ 名前はちびにしようという説があったが、そういう家畜の名はあるデリカシーからさけたほうがいいという説があってそれはやめになった。いいかげんにたまと呼ぶ事にした。雄猫にたまはおかしいというものもあったが、それじゃ玉吉か玉助にすればいいとい・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・ おでこは心の広さを現わし、小さく格好よく引きしまった鼻はインテリジェンスとデリカシーの表象であり、下がった目じりは慈愛と温情の示現である、という場合もあるであろう。しかしまたこれと反対の場合のあることももちろんであろう。 顔の美醜・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・粗野にして滑稽なる相貌をもち、遅鈍にして大食であり、あらゆるデリカシーというものを完全に欠如した性格であった。従って家内じゅうのだれにも格別に愛せられなかった。小さい時分は一家じゅうの寵児である「三毛」の遊戯の相手としての「道化師」として存・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・情と知とを二分別し得るものとすれば、彼は第一に情の人で、それを粗野に取扱われなかった情そのもののデリカシーと、後天的の品とがあったのだ。「此点は、私に性格の或類似からよくわかる。私の感情は、彼より単純で、粗朴で、同時に盲目な生命の力に支・・・ 宮本百合子 「有島武郎の死によせて」
・・・肉の delicacy 感覚と感情の酔歓、そこにのみ最高の美があるのだ。気ままな興奮と浮気な好奇心となげやりな勇気とがそれを汝に持ち来たすだろう。それをほかにしてどこに最もよく生きる道があるのだ。こう彼らは言う。 これも一つの人生観であ・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫