・・・ スエズで買ったそろいのトルコ帽をかぶったジェルサレム行きの一行十人ばかり、シェンケの側の甲板で卓を囲んで、あす上陸する前祝いででもあるかビールを飲みながら歌ったり踊ったりしていた。 七 ポートセイドからイタリアへ・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・ びっくりして振りむいてみますと、赤いトルコ帽をかぶり、鼠いろのへんなだぶだぶの着ものを着て、靴をはいた無暗にせいの高い眼のするどい画かきが、ぷんぷん怒って立っていました。「何というざまをしてあるくんだ。まるで這うようなあんばいだ。・・・ 宮沢賢治 「かしわばやしの夜」
・・・すれ違う連中の八分通りはトルコ帽をかぶったペルシア人、韃靼人である。耳の長い驢馬がふりわけに籠をつけて、小さい蹄に石ころ道を踏んで行く。バクーの市街の古い部分は五、六世紀頃から存在しているのである。 大通りを行きつめたら、自然とカスピ海・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・広い桜の生わった野道を、多勢の子供にぞろぞろとあとをつかれながら、赤いトルコ帽に、あさぎの服を着た楽隊を先頭にして、足に高い棒材でつぎ足しをし、顔を白粉や何で可笑しくそめた男が、ジョーカーのような帽子をかぶって、両手をはげしく振り、腰を曲げ・・・ 宮本百合子 「「禰宜様宮田」創作メモ」
出典:青空文庫