・・・明治煉瓦時代の最後の守りのように踏みとどまっていた巨人が立ち腹を切って倒れた、その後に来るものは鉄筋コンクリートの時代であり、ジャズ、トーキー、プロ文学の時代である。 あの時に塔のほうへ近づいて行ったあの小犬はどうしたか。当時を思い出す・・・ 寺田寅彦 「LIBER STUDIORUM」
・・・例えば去年の春初めてソヴェトにトーキーが出来た。そのトーキーというものは、私はアメリカのトーキーをベルリンで見たし、またイギリスで見たが、非常に音というものの使い方が慊らない。平凡である。ただ唄わせるためにだけに場面としては必要のない場面を・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・また月島の方のある工場ではやはり軍需品を嫌でも応でも温順しく作らせるべく全職工を強制的に国粋的色彩の御用団体にまとめ上げてしまった。トーキーに駆逐されて口が干上ると起ち上った映画従業員のスト等々数えきれない問題のすべては、戦争によって一時的・・・ 宮本百合子 「メーデーに備えろ」
出典:青空文庫