・・・君看双眼色不語似無愁 3 一等戦闘艦×× 一等戦闘艦××は横須賀軍港のドックにはいることになった。修繕工事は容易に捗どらなかった。二万噸の××は高い両舷の内外に無数の職工をたからせたまま、何度もいつに・・・ 芥川竜之介 「三つの窓」
・・・その家の窓からおかみが置き忘れたステッキを突きだすのを、取ろうとすると、スルスルと仕込みの白刃が現われる。ドック近くの裏町の門々にたたずむ無気味な浮浪人らの前をいばって通り抜けて川岸へくると護岸に突っ立ったシルクハットのだぶだぶルンペンが下・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・船は、ドックに入っていた。 私は大分飲んでいた。時は蒸し暑くて、埃っぽい七月下旬の夕方、そうだ一九一二年頃だったと覚えている。読者よ! 予審調書じゃないんだから、余り突っ込まないで下さい。 そのムンムンする蒸し暑い、プラタナスの散歩・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・ 又、彼女が、ドックに入ることがある。セイラーは、カンカン・ハマーで、彼女の垢にまみれた胴の掃除をする。 あんまり強く、按摩をすると、彼女の胴体には穴が明くのであった。それほど、彼女の皮膚は腐っていたのだ。 だが、世界中の「正義・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・ 婦人画家 茶の間で、壁のところへ一枚の油絵をよせかけて、火鉢のところからそれを眺めながら、画中のドックに入っている船と後方の丘との距離が明瞭でないとか、遠くの海上の島がもう一寸物足りないとか素人評をやっている・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・横浜ドック 従業員二千人。ギマン政策として日給三円以上は二十銭、二円以上十銭、二円以下六銭のね上げをしたが、日給を時間制にしたので、仕事がないと一文にもならぬ。 宮本百合子 「大衆闘争についてのノート」
・・・午後その池のおもては子供らが浮べる帆走船の玩具で十八世紀のロンドン・ドックのようだった。ヨットの白い帆は母親達の色彩多い装を一層引立てた。 ヴィクトリア公園の池でほっぺたのこけた顔色わるい子供達は玩具がないから脚で水をバジャバジャ蹴った・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫