・・・It is a dog――ナショナル・リイダアの最初の一行はたぶんこういう文章だったであろう。しかしそれよりはっきりと僕の記憶に残っているのは、何かの拍子に「お師匠さん」の言った「誰とかさんもこのごろじゃ身なりが山水だな」という言葉である。・・・ 芥川竜之介 「追憶」
・・・更に突飛なのは、六十のお婆さんまでが牛に牽かれて善光寺詣りで娘と一緒にダンスの稽古に出掛け、お爨どんまでが夜業の雑巾刺を止めにして坊ちゃんやお嬢さんを先生に「イット、イズ、エ、ドッグ」を初めた。 いよいよ出でて益々突飛なるは新学の林大学・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・世にも胸のわるいのは、欧州婦人がおもちゃにする、小さな、ひよわい、骸骨に手入れの届いた鞣皮を張りつけたような Pocket dog 或は Sleeve dog だ。私は、悠々した、相当大きい、誠実で熱烈なところのある毛の厚い犬を好む。Bre・・・ 宮本百合子 「犬のはじまり」
出典:青空文庫