・・・私は、やはり、人生をドラマと見做していた。いや、ドラマを人生と見做していた。けれども人生は、ドラマでなかった。二幕目は誰も知らない。「滅び」の役割を以て登場しながら、最後まで退場しない男もいる。小さい遺書のつもりで、こんな穢い子供もいました・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・私は、やはり、人生をドラマと見做していた。いや、ドラマを人生と見做していた。もう今は、誰の役にも立たぬ。唯一のHにも、他人の手垢が附いていた。生きて行く張合いが全然、一つも無かった。ばかな、滅亡の民の一人として、死んで行こうと、覚悟をきめて・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・ラッパはむしろ添え物であって、太鼓の音の最も単純なリズムがこの一編のライトモチーフであり、この音の弛張が全編のドラマの曲折を描いて行くのである。ヒロインの心臓はこの太鼓の音と共に生き共に鼓動する。そうして彼女の心の態度はこのライトモチーフの・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・それはあまりたいした成効とは思われなかったが、しかしともかくも人間のドラマのシーンの中間に天然のドラマの短いシーンをはさんで効果を添えるということは、従来よりももっともっと自由に使用してよいわけである。 これに対する有益なヒントはたとえ・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・ やがて歴史が新しい頁を開くとき朝鮮で演じられているドラマの事実は世界に明らかにされるだろう。 誰でも知っているとおり、つい先頃ポーランドのワルソーで第二回世界平和擁護大会が開かれた。第一回大会のとき七十余ヵ国が代表を送った。それに・・・ 宮本百合子 「世界は求めている、平和を!」
・・・その時の上演目録はコムソモールのコンムーナを取り扱った陽気なオペレットと五ヵ年計画に於ける農場の集団化を主題としたドラマだった。オペレットの事だから筋は割合他愛の無い物だし、歌がどっさり這入り陽気にやっているらしくは見えるが全体に漲るユーモ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト「劇場労働青年」」
・・・「彼が自分のドラマの中に導入した凡ての荒唐無稽さにも拘らず『マクベス』はそれでも中世紀のゴシック風の寺院の如く巨大なる、絶大なる作品である」「人類の全世界史的発達の各々の瞬間は、同様に豊富なる収穫を詩のために与えるものだということの証拠・・・ 宮本百合子 「ベリンスキーの眼力」
出典:青空文庫