・・・その他、ニューヨーク市では、「一分早ければ一人多くたすかる」という標語をかかげて、市民の間からたちまちに一千万円以上のお金をつのっておくりとどけました。サンフランシスコ市では、少年少女たちが日本への義えん金を得るために花を売り出したところ、・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・ デパートアルプスの頂上から見おろした銀座界隅の光景は、飛行機から見たニューヨーク、マンハッタンへんのようにはなはだしい凹凸がある。ただ違うのはこっちのいちばん高い家の高さがかの地のいちばん低い家の高さに相当する点であろう。このちぐはぐ・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・ 二十年前に大西洋を渡ってニューヨークへ着きホボケンの税関の検閲を受けたときに、自分のカバンを底の底までひっくり返した税関吏が、やはりこのチューインガムを噛んでいた。これが自分のチューインガムというものに出会った最初の機会であった。勿論・・・ 寺田寅彦 「チューインガム」
・・・五月初旬であったかと思う。ニューヨークの宿へ荷物をあずけて冬服のままでワシントンへ出かけた時には春のような気候であった。華府を根拠にしてマウント・ウェザーの気象台などを見物して、帰ってくると非常な暑さで道路のアスファルトは飴のようになり、馬・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・これに反して大多数の政党員ないし政治に興味をもつ一般人、それからまじめな商業や産業に従事している人たちにとってたとえば仏国の大統領が代わったとかニューヨークの株が下がったとか、あるいは北海道で首相が演説したとか議会で甲某が乙某とどんなけんか・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・という旅行記をニューヨークから出版した。それがさいきん「戦塵の旅」という題で、ソヴェト同盟旅行の部分だけ翻訳出版された。一九四一年十一月より五ヵ月ばかり、連合軍側の戦時特派員という資格で、アフリカ、近東、ソヴェト同盟、インド、中国を訪問し、・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・は一九一九年のはじめにニューヨークで書かれた。二十一歳になった作者が、めずらしく病的で陰惨な一人の男である主人公の一生を追究している。描写のほとんどない、ひた押しの書きぶりにも特徴がある。 ニューヨークのようなところに生活しているとき、・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・日の文明をちょうど子供が新しいすばらしい玩具の作り方を発見して、それに夢中になっている状態に似ているといっている今日この空虚感がどんなに深く大きくアメリカの人々の感情にもしみ入っているかということは、ニューヨークですばらしい成功をおさめてい・・・ 宮本百合子 「アメリカ文化の問題」
・・・ 私のいたニューヨークに、昔オランダ人が上陸した当時から開かれたガリーンウィッチ・ビレージと云う街があります。そこは芸術家の多く住む気取った一区画として知られていますが、そこの若い人々が出している『プレー・ボーイ』という同人雑誌などは、・・・ 宮本百合子 「アメリカ文士気質」
・・・亀のチャーリーは相もかわらず貧乏で冬じゅう何も食わぬ二匹の亀の子とボロ靴下を乾したニューヨークの小部屋では五セントの鱈の頭を食って暮しているがピオニイルはゾクゾク殖えてゆくという物語を、五章からなるエピソード的構成で書いているのである。・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
出典:青空文庫