・・・ 父の山気を露骨に受けついで、正作の兄は十六の歳に家を飛びだし音信不通、行方知れずになってしまった。ハワイに行ったともいい、南米に行ったとも噂させられたが、実際のことは誰も知らなかった。 小学校を卒業するや、僕は県下の中学校に入って・・・ 国木田独歩 「非凡なる凡人」
・・・比島、グワム空襲。ハワイ大爆撃。米国艦隊全滅す。帝国政府声明。全身が震えて恥ずかしい程だった。みんなに感謝したかった。私が市場のラジオの前に、じっと立ちつくしていたら、二、三人の女のひとが、聞いて行きましょうと言いながら私のまわりに集って来・・・ 太宰治 「十二月八日」
・・・ いいえ、ハワイの事、決死的大空襲よ、なにせ生きて帰らぬ覚悟で母艦から飛び出したんだって、泣いたわよ、三度も泣いた、姉さんはね、あたしの泣きかたが大袈裟で、気障ったらしいと言ったわ、姉さんはね、あれで、とっても口が悪いの、あたしは可哀想な子・・・ 太宰治 「律子と貞子」
・・・たとえば昔からわが国でも座興として行なわれる影人形や、もっと進んでハワイの影絵芝居のようなものも、それが光と影との遊戯であるというだけでは共通な点がなくはない。またたとえばわが国古来の絵巻物のようなものも、視覚的影像の連続系列であるという点・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・椰子の木や琉球の芭蕉などが、今少し延びたら、この屋根をどうするつもりだろうといつも思うのであるが、きょうもそう思う。ハワイという国には肺病が皆無だとだれかの言った事を思い出す。妻は濃緑に朱の斑点のはいった草の葉をいじっているから「オイよせ、・・・ 寺田寅彦 「どんぐり」
・・・ 二 林は五年生のとき、私たちの学校へ入ってきた子だった。ハワイで生れてハワイの小学校にあがっていたが、日本に帰って勉強するために、お祖母さんと、妹と三人で、私が犬に吠えられて茄子を折った邸の、すぐ隣りの大きな家に住・・・ 徳永直 「こんにゃく売り」
・・・『ここの下はハワイになっているよ。』なんて誰か叫ぶものもあるねえ、どんどんどんどん僕たちは急ぐだろう。にわかにポーッと霧の出ることがあるだろう。お前たちはそれがみんな水玉だと考えるだろう。そうじゃない、みんな小さな小さな氷のかけらなんだ・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
出典:青空文庫