・・・を見たときに、スクリーンに現われた地図の上を一本の光の線で示された鉄路の触手がにょろにょろと南に延びて行ってヒマラヤの北に近づくを見た。今度の探険隊員の講演の際壁にかけられた粗末な北氷洋の海図の上を赤い線で示された航路の触手がするすると東に・・・ 寺田寅彦 「北氷洋の氷の割れる音」
・・・ダージリンは知らないがヒマラヤはただ寒いだけであろう。暑さのない所には涼しさはないから、ドイツやイギリスなどでも涼しさにはついぞお目にかからなかった。ナイアガラ見物の際に雨合羽を着せられて滝壺におりたときは、暑い日であったがふるえ上がるほど・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
・・・が芸術的に弱いロマンティシズムに捕われながら、手法の上で一種独特の単調な反復を敢てしている点が、私に数ヵ月以前観たドイツのヒマラヤ登攀実写映画を思い出させた。その映画でもやはり人間の努力の姿を語ろうとして同じような山道を攀じ登る姿を繰り返し・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・そこには目じるしのように一本のヒマラヤ松が聳えている。 その家に住む前には、同じ高台のつづきではあるがもっとずっと女子大よりの処に暮していたことがあった。隣の奥さんが女のおくれ毛止めを発明したとかで、門には石柱が立っているその家の庭の方・・・ 宮本百合子 「犬三態」
出典:青空文庫