・・・ それから、子供の時に唱歌をやったと同じように、時々ピアノの鍵盤の前に坐って即興的のファンタジーをやるのが人知れぬ楽しみの一つだそうである。この話を聞くと私は何となくボルツマンを思い出す。しかしボルツマンは陰気でアインシュタインは明るい・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・しかしあのろうそくの炎の不定なゆらぎはあらゆるものの陰影に生きた脈動を与えるので、このグロテスクな影人形の舞踊にはいっそう幻想的な雰囲気が付きまとっていて、幼いわれわれのファンタジーを一種不思議な世界へ誘うのであった。 ジャヴァの影人形・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・重兵衛さんは自分の心にファンタジーの翼を授け、自分の現実世界の可能性の牢獄を爆破してくれた人であった。 重兵衛さんの次男で自分よりは一つ二つ年上の亀さんからも実に色々のことを教わった。彼はたしかに一種の天才であったらしい。何をさせても器・・・ 寺田寅彦 「重兵衛さんの一家」
・・・を読んだのもそのころであったが、これはファンタジーの世界と超自然の力への憧憬を挑発するものであった。そういう意味ではそのころに見た松旭斎天一の西洋奇術もまた同様な効果があったかもしれないのである。ジュール・ヴェルヌの「海底旅行」はこれに反し・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・どんな虚構、どんな作為のファンタジーにしても、それが文学として実在し、読者の心に実在感をもってうけいれられるためには、力をつくして、そのファンタジーや、ディフォーメーションにそのものとしての現実性を与えることに努力しているのである。〔一・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・ ――何色だったか……あれは大人のおとぎばなしですよ、菓子の中から革命が擡頭したりするファンタジーは、少し困りますよ。 いま赤色をはられているのは、絵本だった。東洋、西洋、地球上のいろんな民族のプロレタリアートが独特の服装、風景、方・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
出典:青空文庫