・・・しかしレンズとフィルムは物質であってなんらの既成概念もなければ抽象能力もない、一見ばか正直のようであって、しかも広大無辺の正確なる認識能力を所有しているのである。試みにたったひとこまの皮膜に写った形像を精細に言葉で記載しようとしてもおそらく・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・文化的な仕事しかしていない東宝という映画製作所の闘争で、数千の武装警官と機銃をのせた甲虫が登場した光景は、フィルムにもおさめられた。言論の自由が民主的発言にたいしても、百パーセントの実効をあたえているだろうか。減刑運動という名のもとに、日本・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・新たに増税されるものの種目に、写真機及その附属品、原料というのがある。フィルム、原像液、引延機、みんな其々に税がかかるのであろう。写真機の大衆化は、その生産過程の特殊性から或る方面の支持によったのであるそうだが、ずうっとひろげておいて今度は・・・ 宮本百合子 「カメラの焦点」
・・・特に労働、集団農場クラブ用の小戯曲、啓蒙フィルムなどは、活溌に時々の情勢に応じながら百パーセントにその役目を果して来たのだ。 さて、愈々五ヵ年計画がはじまった。五日週間が実行される。工場、役所、農村で階級的能率増進のためのウダールニクが・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ニュールンベルグの国際裁判の公判廷で、ゲーリングは自分らの惨虐をふたたびフィルムの上に展開されて、文字どおり嘔吐したと伝えられている。その命令を下した人物さえ、それを見直すにたえないほどの惨虐が行われたのであった。何十万人かがその餌食とされ・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・そればかりでない、ソユズ・キノは、ごく初歩的な啓蒙のためのフィルムを一年に何本作るかと云うプランを立てている。中には、赤ん坊にどう云う風にして湯をつかわせるか、台所の油虫はどんな薬で退治るかを教える映画や、性病予防の宣伝フィルムなどもあって・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の芝居・キネマ・ラジオ」
・・・ それで子供のために笑話的教育フィルムが出来たり……それも計画的生産で、活動も一年に教育フィルムを何本作る。歴史的なフィルムを何本作る。十月革命の歴史に関するフィルムは何本作る。喜劇は何本、外国の問題を取扱ったものは何本作る。そういう風・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・若い女は、編物細工を眺めた時と同じように情感の死んだ下膨れの顔をきっと上向け、唇一つ動かさず廻転するフィルムを瞶めていた。――〔一九二五年十月〕 宮本百合子 「茶色っぽい町」
・・・例えば最も見易い技術的な問題に連関してフィルムその他諸材料の質の低下その他から始まって。これらの事情は、映画企業に当る者、製作に当る人々の精神、感情、処世の智慧にも及ぶ関係をもっているのである。 既にはっきり予見されているこれらの困難を・・・ 宮本百合子 「観る人・観せられる人」
・・・三人はせまいところにキチンと座って、半ばから来てよくつづきの分らないフィルムの動き方を見ました。私の囲りはみんな若いやすっぽいかおっつきの男達ばっかりでした。 いきなり座った私を間違った事をしたあとの様な妙なかおをして見て居ました。・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫