・・・昨年の晩秋、ヨオゼフ・シゲティというブダペスト生れのヴァイオリンの名手が日本へやって来て、日比谷の公会堂で三度ほど演奏会をひらいたが、三度が三度ともたいへんな不人気であった。孤高狷介のこの四十歳の天才は、憤ってしまって、東京朝日新聞へ一文を・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・上海がかつて国際犯罪都市であったように、ブダペストが国際スパイ都市であるように。けれど、そういう犯罪的ファクターは、都民一人あまさず指紋をとることで絶滅することができないものであることも明瞭である。悪に誘われ――それが悪とさえわきまえず悪に・・・ 宮本百合子 「指紋」
・・・ 去年の十二月、ブダペストで開かれた世界民主婦人連盟の第二回大会では、日本のわたしたちが心をうたれるいくつかのスナップ写真がとられている。そこには白い朝鮮服をつけて、うれしそうに代議員席にあって拍手している南北朝鮮からの代表チュ・エンた・・・ 宮本百合子 「人間イヴの誕生」
・・・どんな風に事柄が運んで行ったと云うことはあなたもまだ覚えていらっしゃるでしょう。ブダペストへ参ってからも、わたくしはあなたと御交際を続けて行きました時も、まだ御主人がどんな方だか知らなかったのですね。 女。ええ。 男。そのころある日・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
・・・場所はこのブダペストで、時は十月。男。どうも分かりませんな。貴夫人。まあお聞きなさいましよ。十年前にあなたとある所の晩餐会で御一しょになりましたの。その時はあなたがまだ栗色の髪の毛をしていらっしゃいました。わたくしもあの時から見ると・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「辻馬車」
出典:青空文庫