・・・僕は横町を曲りながら、ブラック・アンド・ホワイトのウイスキイを思い出した。のみならず今のストリントベルグのタイも黒と白だったのを思い出した。それは僕にはどうしても偶然であるとは考えられなかった。若し偶然でないとすれば、――僕は頭だけ歩いてい・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・ 僕の次にはいったのは或地下室のレストオランだった。僕はそこのバアの前に立ち、ウイスキイを一杯註文した。「ウイスキイを? Black and White ばかりでございますが、……」 僕は曹達水の中にウイスキイを入れ、黙って一口ずつ・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・ 暗紅い稲妻が、ブラックマウンテンに燃立っても、水に跳び込む卿等は同じ筏から。 ジャボン……ジャボン…… 巨大な黒坊、笑う黒坊、育った赤坊の黒坊――。 午後八時頃。湧こうとする濃闇の、其の一時前の仄明り。音楽の賑う旅舎の・・・ 宮本百合子 「一粒の粟」
出典:青空文庫