・・・それと同時に、ブーンといって、バイオリンの糸の鳴り音がきこえたのであります。 少年は、はっと心に思いました。なぜならその音色は、きき覚えのあるなつかしい音色でありましたからです。 もうすこしのことに、気づかずに通り過ぎようとしました・・・ 小川未明 「海のかなた」
・・・さは、二階に眠っていた父がおきたのをききつけて、洗面所でバシャバシャやっているうしろからいきなりびっくりさせ、それから電話を一つたのんで、又こんどは二階のおやじさんの空巣へもぐり込んで例によってお眠りブー子をやって、おきて来たら、すぐ私のい・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・再び金髪をかき上げる暇もなく、彼はブーキン夫人の有名な饒舌に捕まった。「ああ、レオニード・グレゴリウィッチ! お目にかかれて何て仕合せだったんでしょう。さ、どうか早く下りて来て私共の相談相手になって下さい」 交際で、ジェルテルスキー・・・ 宮本百合子 「街」
出典:青空文庫