・・・ 酔うにつれて、荒涼たる部屋の有様も、またキヌ子の乞食の如き姿も、あまり気にならなくなり、ひとつこれは、当初のあのプランを実行して見ようかという悪心がむらむら起る。「ケンカするほど深い仲、ってね。」 とはまた、下手な口説きよう。・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・ 実に不愉快であった。馬鹿野郎だと思った。激怒に似た気持であった。 プランがあるのか。組織があるのか。何も無かった。 狂人の発作に近かった。 組織の無いテロリズムは、最も悪質の犯罪である。馬鹿とも何とも言いようがない。 ・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・具体的なことがらについては、君と相談のうえできめるつもりであるが、僕のプランとしては、輸出むきの雑誌にしたい。相手はフランスがよかろう。君はたしかにずば抜けて語学ができる様子だから、僕たちの書いた原稿をフランス語に直しておくれ。アンドレ・ジ・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・ 右の二作、プランまとまっていますから、ゆっくり書いてゆくつもりです。他の雑文は、たいてい断るつもりです。 その他、来春、長編小説三部曲、「虚構の彷徨。」S氏の序文、I氏の装幀にて、出版。 この日、午後一時半、退院。・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・けれども、さすがに病床の粥腹では、日頃、日本のあらゆる現代作家を冷笑している高慢無礼の驕児も、その特異の才能の片鱗を、ちらと見せただけで、思案してまとめて置いたプランの三分の一も言い現わす事が出来ず、へたばってしまった。あたら才能も、風邪の・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・そうして第八日第九日目を十分に休養した後に最後の第十日目に一気に頂上まで登る、という、こういうプランで遂行すれば、自分のような足弱でも大丈夫登れるであろう。 こんなことをいいながら星野の宿へ帰って寝た。ところがその翌日は両方の大腿の筋肉・・・ 寺田寅彦 「浅間山麓より」
・・・T氏が特に興味をもって根ほり葉ほり聞いていたら、そのループのプランをかいた図面をくれてよこした。 だんだん山が険しくなって、峰ははげた岩ばかりになり、谷間の樅やレルヘンの木もまばらになり、懸崖のそこかしこには不滅の雪が小氷河になって凍っ・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・しかし浴場に附属した礼拝堂と図書館と画廊と音楽堂と運動場の建築が必要であると云って、それで三人でこの仮想的浴場のプランを画いてみたりした。しかしその費用の出処については誰にも何の目あてもないので、おしまいにはとうとう三人で笑い出してしまった・・・ 寺田寅彦 「電車と風呂」
・・・それが昔からの土人の都ではなくてアメリカ・スペイン人の都であったとは写真で見た町のプランから明瞭だそうである。しかしどうしてこの都市がすっかり荒れ果てた死骸になってしまったかはだれにもわからない。地震か、ペストか、それともソドム、ゴモラのよ・・・ 寺田寅彦 「ロプ・ノールその他」
・・・おふみと芳太郎とは、漠然と瞬間、全く偶然にチラリと目を合わすきりで、それは製作者の表現のプランの上に全然とりあげられていなかったのである。後味の深さ、浅さは、かなりこういうところで決った。溝口氏も、最後を見終った観客が、ただアハハハとおふみ・・・ 宮本百合子 「「愛怨峡」における映画的表現の問題」
出典:青空文庫