・・・ 女房が選鉱場のベルトに捲かれて、頭と腕をちぎられてしまった。それからヤケを起して方々をとびまわった。武松はO鉱山で普通一ン日三円から四円出している。それを見てきた。彼等は、自分達との差が、あまりにひどいのに眼を丸くした。「KやAに・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・手紙で返事を寄こして、僕、寡聞にして、ヘルベルト・オイレンベルグを知りませず、恥じている。マイヤーの大字典にも出て居りませぬし、有名な作家ではないようだ。文学字典から次の事を知りました、と親切に、その人の著作年表をくわしく書いて送って下さっ・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・そして、石と恋人の体とは砕け合って、赤い細い石になって、ベルトの上へ落ちました。ベルトは粉砕筒へ入って行きました。そこで鋼鉄の弾丸と一緒になって、細く細く、はげしい音に呪の声を叫びながら、砕かれました。そうして焼かれて、立派にセメントとなり・・・ 葉山嘉樹 「セメント樽の中の手紙」
・・・ 工場では、モーターや、ベルトや、コムベーヤーや、歯車や、旋盤や、等々が、近代的な合奏をしていた。労働者が、緊張した態度で部署に縛りつけられていた。 吉田はその工場に対してのある策戦で、蒸暑い夜を転々として考え悩んでいた。 蚊帳・・・ 葉山嘉樹 「生爪を剥ぐ」
・・・ある一つの工場が五ヵ年計画を基本とした自身の生産プランを大衆的に受け入れた瞬間から今日まで、そこの仲間は機械によって結ばれ、ベルトの唸りで互に繋がれ、企業内の妨害分子と闘いつつ、高く、高くと、プロレタリアの生産と文化を引きあげて来た連中だ。・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・自働ベルトを一時間毎に二分止めて、その間に平常軽い体の屈伸運動をさせるだけでさえ、婦人の健康には大なるプラスであることを一般が知って欲しいと思う。〔一九三七年五月〕 宮本百合子 「職業婦人に生理休暇を!」
・・・のしいか、かみ昆布、人造バタの妙なのなどと組合わされた一円なにがしの箱の真中に、桃色ベルトのキャラメルが一箇はさまっている。それ一つ欲しいばっかりに、病人の注文であるからこそ、妹は涙をふるってまるでいらないものの入ったその箱ぐるみ一個のキャ・・・ 宮本百合子 「諸物転身の抄」
・・・ 外事掛 太った男 紺ベルトのついた外套「あすこでは これやって居たんですよ」 両手でピアノ弾くようにする タイプライターのことなり「本の宣伝に来たとは思いませんが、得手が分らないんでね」 ・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・ 暫く声が乱されたが、やがて、カーキ色は立ち上って、外套のベルトをしめなおしながら、「こっちの方がいいですよ。あっちは子供の教育方面にもわるいしね」と、どこかふけて、語られない多くのことを目撃して来た者のような言葉つきで、云うの・・・ 宮本百合子 「東京へ近づく一時間」
・・・猫背に見える程ベルトを高いところで締めたアメリカ型の外套を着たまま椅子にかけている松崎は、陽気にふき出した。「なあーんだ! ハッハッ愚にもつかないことでいい年をしながら啀み合っているんだな――それにしても、君んところ、狭いのに大変ですね・・・ 宮本百合子 「街」
出典:青空文庫