・・・私についての様々の伝説が、ポンチ画が、さかしげな軽侮の笑いを以て、それからそれと語り継がれていたようであるが、私は当時は何も知らず、ただ、街頭をうろうろしていた。一年、二年経つうちに、愚鈍の私にも、少しずつ事の真相が、わかって来た。人の噂に・・・ 太宰治 「鴎」
・・・このごろ、あなたの少しばかりの異風が、ゆがめられたポンチ画が、たいへん珍重されているということを、寂しいとは思いませんか。親友からの便りである。私はその一葉のはがきを読み、海を見に出かけた。途中、麦が一寸ほど伸びている麦畑の傍にさしかかり、・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ とこう言い切るとあなたのほうじゃ、すぐもうこっちをポンチにしているのだからな。かなわんよ」「それは、君だって僕だってはじめからポンチなのだ。ポンチにするのでもなければ、ポンチになるのでもない」「私は在る。おおきいふぐりをぶらさげて・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・ああ、この鼻のさきに突きつけられた、どうしようもないほど私に似ている残虐無道のポンチ画。 お隣りのマツ子は、この小説を読み、もはや私の家へ来ないだろう。私はマツ子に傷をつけたのだから。涙はそのゆえにもまた、こんなに、あとからあとから湧い・・・ 太宰治 「めくら草紙」
・・・という「ポンチ」のまねをしたもののあったのもそのころである。月給鳥という鳥の漫画には「この鳥はモネーモネーと鳴く」としたのがあったのを覚えている。官権党対自由党の時代であったのである。今のブル対プロに当たるであろう。歴史は繰り返すのである。・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・ こういう意味で私は本当の漫画と低級なポンチあるいはくすぐり画とを区別したい。後者の実例は場末の玩具屋の店頭で見られる安絵本のポンチなどがそれである。そこには尊い真は失われて残るものは虚偽と醜陋な悪趣味だけである。美しい子供の頭にこうい・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・見物人はわれわれ位の紳士だけれども、何だか妙な、絵かきだか何だか妙な判じもののような者や、ポンチ画の広告見たような者や、長いマントを着て尖ったような帽子を被った和蘭の植民地にいるような者や、一種特別な人間ばかりが行っている。絵もそういう風な・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
出典:青空文庫