文字を読みながら、そこに表現されてある音響が、いつまでも耳にこびりついて、離れないことがあるだろう。高等学校の頃に、次のような事を教えられた。マクベスであったか、ほかの芝居であったか、しらべてみれば、すぐ判るが、いまは、も・・・ 太宰治 「音に就いて」
・・・無論マクベスの発端のように行数は短かくても、興味の上において全篇を貫く重みのあるものは論外であるが、平々凡々たるしかも十行内外の一段を設けるのは、話しの続きをあらわすためやむをえず挿入したのだと見え透くように思われる。換言すれば彼の戯曲のあ・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・人間の可憐さ、狡猾さ、奸智、無邪気さ、あらゆる強烈な欲望が描かれていて、そこに登場する婦人も、決して一様ではない。マクベス夫人のようにおそろしい女から、リア王の三人娘のような諸性格、ロミオとの悲しい愛に命をおとしたジュリエットのような姫から・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ シェクスピアの描いた女性のなかには、堂々たる婦人裁判官ポーシャばかりでなく、おそろしいマクベス夫人ばかりでなく、なかなかぬけめない、機略にとんだ女がいくたりもある。しかし、それは大体、おかみさん、または娘という環境で、デスデモーナのよ・・・ 宮本百合子 「デスデモーナのハンカチーフ」
「『マクベス』はシェークスピアの最も大きな、そしてそれと共に最も怪奇な作品の一つである。この作では一方からは彼の創造的天才の巨大な力が全部反映し、他方からは彼が生活している世紀の野蛮さの全部が反映している」「シェークスピ・・・ 宮本百合子 「ベリンスキーの眼力」
・・・「ハムレット」のオフェリヤ。「マクベス」のマクベス夫人。「ベニスの商人」のポーシャ。「リア王」の三人の娘たち。「オセロ」のデスデモーナ。色とりどりの可憐さ、鮮やかな性格と情熱と才智とで、男の政治、経済の波瀾、権謀の中に交錯してゆく女の姿が描・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
出典:青空文庫