・・・ ――ええ、でもマネキン嬢にもなれるのです。 ――というと? ――全部が一まわり小さいので、写真ひきのばせば、ほとんど完璧の調和を表現し得るでしょう。両脚がしなやかに伸びて草花の茎のようで、皮膚が、ほどよく冷い。 ――どうか・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・女優がパリの流行雑誌まるうつしの扮装でマネキンみたいに舞台をのたつく悪習をもつと云われている諷刺劇場なんか六十パーセントだ。 ソヴェトの劇場は、今までいつも一つ大きな困難をもって来た。劇場建築が旧式で小さいということだ。昔はそれでもよ・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・ほんとのお針女、日給僅か三フランを得るために、ある時はブルジョアの家に出張したり、またある時は、自家の小さな部屋――ミシンのところへ行くのにはマネキン人形をずらさなければならないという、そんな小さな部屋で働いたりしている貧しい「女裁縫師」で・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
出典:青空文庫