・・・三文文士がこの字で幼稚な読者をごまかし、説教壇からこの字を叫んで戦争を煽動し、最も軽薄な愛人たちが、彼等のさまざまなモメントに、愛を囁いて、一人一人男や女をだましています。 愛という字は、こんなきたならしい扱いをうけていていいでしょうか・・・ 宮本百合子 「愛」
・・・ 小泉信三氏の『共産主義批判の常識』の序文をみても、どこか安定をさがしている文化的な欲求にむすびつくモメントがはっきりあらわれています。小泉氏は、公正な学問的立場からの批判という点を力説しているし、読む人も「公平な」知識を得ようとして読・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・既成の文学のなかで、愛憎の問題は、人間の発展のモメントとして、まともに扱われる基礎を失ってしまった。こういうテーマに熱中していたのは中産階級の作家であり、文学であり、またその読者であったのだが、今日、日本の中産階級というものの実態はどうだろ・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・日本の民主的な文化、文学運動をより発展させるために有益なモメントがいくつか発見されるという意味からも、こんにち、これらのソヴェト報告は生々とした価値をもっている。 これらの報告の書かれた一九三一年から三二年ごろ、日本の人民的な文化、文学・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・ここに転向というモメントから、多くの人々の精神が生涯の問題としてむしばまれ、根本から自主性を失って、マルクス主義者でなかったものより善意を歪められ卑屈にさせられて行った本質がある。「冬を越す蕾」は、治安維持法のこのような非道さにふれてい・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・最悪な人民経済の事情から女性は家庭からどしどしはたき出されているのに、生活を求めて女性がたたかってゆく社会では、昔ながらの封建性が克服されていないばかりか、数年前には知られなかった複雑微妙な堕落のモメントが、女性の一歩一歩に用意されてある。・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)」
・・・その当時、作者が全然自覚していなかった心理的なモメント――新しく自分におこって来ている恋愛のあいてとその人との間にある思いが、人間の明るさより暗さを、素直さよりもより深く鬱屈を暗示したということは微妙なことだったと考えられる。「渋谷家の始祖・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・二人の娘たちに対して、受け身に、曖昧に、謂わばイレーネに見つけられたという工合でのモメントにおいて、自分の恋愛や結婚を語らないでも、もっと本当の愛情からの娘たちへわからせてゆく知慧の働きはあったと思う。働いて、たたかって、そして子供らを愛し・・・ 宮本百合子 「雨の昼」
・・・他の三人の婦人たちの善意とまじめさにみちた返事についても、ここにまた新しく生れる発展のモメントがひそめられているとも思えます。 キャナライゼーションの社会的な方法としてマス・コムュニケーションの問題もある。ラジオ、新聞、映画、広告宣伝の・・・ 宮本百合子 「アメリカ文化の問題」
・・・些細な個人的モメントによって展開されてゆく人格形成――自我の確立と拡大、完成への過程を描いている。デュガールは、第一次ヨーロッパ大戦を終ったあとのフランスで、ファシズムの文化侵略に対する広汎な人民戦線の結成されたフランスで、主人公ジャックの・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
出典:青空文庫