・・・この大仕掛のダイジェスト世論調査が、何故にとりかえしのつかない大失敗に終ったかというと、そこには実におもしろい社会の現実のモメントがある。三六年のルーズヴェルト大統領選挙のとき、ダイジェストの世論調査所がアンケートを送りつけた人々の名簿は、・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・いためつけられた主我の病癖は、当然の結果として、世界史の推移のモメントとしての時間の感覚をも客観的には把握していないのである。 いくとおりかの例のうちで、誰の衷心にもその響にこたえるなにものかをふくんでいるのは、第二の若い人々の心情・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・ この実例は、ある人々の日ごろの社会的、文学的態度の安易さがばくろされたモメントとして見るよりは、むしろ、現代文学のこの崩壊にかかわらず、やはり文学につながる理性と人間的良心のうちには、くらましきれない責任感がのこされている、という角度・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・ 生きてゆく生きかたそのものの現実に人民の権利の確立と民族としての独立をとりもどしたいわたしたちの欲求は、こういうモメントからも、ひとしお切実に目ざめさせられる。〔一九四九年十一月〕・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・ ソヴェトのプロレタリア作家達は反ソヴェト・カンパニアというモメントから、ボルシェヴィキらしく、階級的発展に役立つものをとりあげた。ゴーリキー。デミヤン・ベードヌイ。セラフィモーヴィッチ。ファジェーエフ。バトラーク。プリボイ。グラトコフ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・情勢は、こういう風なモメントを経て、多くの中間層の家庭を様々な形に崩壊させて行くのである。そして、敵は抜目なくその間から自身の利用すべきものを掴むのだ。 向い合って坐っていた女給が突然、「いやァ! こわい!」と袂で顔を押え、体を・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・でも視野が比較的狭くて歴史のモメントを深く個人の上にみないからその点は喰い足りず。赤チャンの名前が男の子はまた一苦心で、食堂のテーブルが賑わいます。今、照二郎というのを思いつき、かなりいいと思います。字面も悪くないでしょう。 十一月・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・社会の上流で、アンナ・カレーニナの悲劇が生きられていることを歴史的・人間的悲劇と腐敗の現実として、しんからつかんでいて、云ってみれば、トルストイ自身が自然発生的な批判とそのリアリズムで描き出した社会的モメントを、一そう明確にして、それにたい・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・一九四九年が、国内的に誰にとってもいい年でなかったという現実は、日本の民主主義運動のやりかたや、解放運動の科学的な理論の骨格そのものについて沈潜した再検討を必要とする人々の気持のモメントともなっている。 この荒い波は、直接間接文学に影響・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・まじめに考えさせるようなモメントは重苦しいとしてみんなきりすてて、スリル中心に読者をひっぱって行って、一定の雰囲気の影響のもとにおくジャーナリズムの方法が、「一生一代の勇敢なる冒険『創作を書く』ことを思いついた」著者の文筆におのずからそなわ・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
出典:青空文庫