・・・社会的モラルの問題となし得る先行的な事実、新たな芸術創造のための素地の探求、理解の具体性として、生活事情と色感とのなまなましい関係が今日の問題としていかに深められているか、と考えるのであった。 二 こういう・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・若い勤労婦人にとって、現在のような経済上の危機は、彼女たちのモラルの危機としてあらわれています。更に、まだ全然社会化されていない日本家庭の家事の負担は、家庭の主婦を過労にさせているばかりか、すべての勤労婦人にとって二重の疲労をもたらしている・・・ 宮本百合子 「国際民婦連へのメッセージ」
・・・抱月が坪内先生の常識的モラルにあっては包括され得なかった点など、ね。面白いと思います。早稲田出の代議士が勲一等を貰ってあげようとしたがことわったことは、又先生の賢さの一面でしょう。白鳥が坪内先生によって文学の道を学んだのみならず、生死に処す・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・の悲劇がほんとうに卒業された文学になった、ということは、その社会に新しい人間性の全基準が生れ、新しいモラルのなりたつ社会的条件が確立した場合にだけ云われる。しかも、外部的にそういう社会条件がなり立ったばかりでなく、そのように新しくなった社会・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・終章のモラルも、ジェスチュアが目立って甘たるい。 例えば、このひろく読まれた一冊の本をめぐって、今日の読者としての作家や評論家はどんな在りようを反映したであろうか。あれが一種のサロンの本であることを率直に評した人は極めて僅であったと思う・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・その時々の一種のモラルみたいなものを描いてゆく」ものとされているのが、生態描写である。青野氏はなかなか面白いとし、宇野氏は「イヤ、いかんね」と云い、その座は笑声に満ちたらしいが、これをすこし云い直してみると、私たちの直感で、或る本質がつかめ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・ 彼等は作家のより広汎な社会生活と生活に対する積極性と若き時代のモラルとを自身に求めたのであった。けれども、第一これらの人々が社会と文学とに階級を認めざるを得ない今日の現実に反して、能動精神というものを抽象化してこれも漠然たる一般社会性・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ かかるが故に、行動主義は間断なき前への飛躍の意味に於いて、あらゆるモダアニズムとモラルを同じくする。ヒューマニズムのモラルの上に立つ行動主義は、必然、個人主義である。しかしこの個人主義はエゴ中心的な満足した自我のブルジョワ個・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 徳川時代というものの中で眺める馬琴というような作家は、同時代の庶民的情調に立つ軟文学の気風に対して、教養派のくみであったろうが、馬琴の芸術家としての教養の実体はモラルとしての儒教に支那伝奇小説の翻案的架空性を加えたものが本道をなしてい・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・物語のモラルは只それだけである。 宇宙の間で、これまでサフランはサフランの生存をしていた。私は私の生存をしていた。これからも、サフランはサフランの生存をして行くであろう。私は私の生存をして行くであろう。・・・ 森鴎外 「サフラン」
出典:青空文庫