・・・ 誰かも云ったように、砂漠と苦海の外には何もない荒涼落莫たるユダヤの地から必然的に一神教が生れた。しかし山川の美に富む西欧諸国に入り込んだ基督教は、表面は一神でありながら内実はいつの間にか多神教に変化した。同時にユダヤ人の後裔にとっての・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・後年アインシュタインに対する反ユダヤ人運動でひどく器量を悪くしたゲールケはやはり一座の中でいちばん世間人らしいところがあった。若くて禿頭の大坊主で、いつも大きな葉巻を銜えて呑気そうに反りかえって黙っていたのはプリングスハイムであった。イグナ・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・その引力がつい近頃になってドイツのあるユダヤ人の鉛筆の先で新しく改造された。 過去を定めるものは現在であって、現在を定めるものが未来ではあるまいか。 それともまた現在で未来を支配する事が出来るものだろうか。 これは私には分らない・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・ナチスは、その火事を機会として、ドイツ中の共産党員、社会主義者、民主論者、平和論者、自由主義者、ユダヤ人の大量検挙をはじめたのであった。ヒトラーの手先がミュンヘンにも入ってきて、公共建物のすべての屋根に気味わるい卍の旗がひるがえることになっ・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・ マルクス家はユダヤ系であった。けれどもトリエル市のすぐれた弁護士であったハインリッヒ・マルクス一家の生活はかなりゆとりの有るものであった。父マルクスは十八世紀フランス哲学を深く学び、ディドローや、ヴォルテール、悲劇作者ラシーヌの作品な・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・と自分からいっていたピエールが、ドレフュス事件でドレフュス大尉がユダヤ人であるということのために無辜の苦しみに置かれていることを知って、正義のために示した情熱。ノーベル賞授与式の時の講演でピエールが行った演説も、マリアに新しい価値で思い起さ・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・ウォール街の実業家たちと宴会の席上で終始一貫反ユダヤ熱をあげて、プロテスタント機関紙『チャーチマン』に警告されている。また、アメリカ聖教会機関紙『ウイットネス』は、MRAの労資協調論を批評して「美くしい宗教言辞のかげでMRAはなぜ世界最大の・・・ 宮本百合子 「再武装するのはなにか」
・・・使徒パウロからユダヤ人サウルへの拙劣な転身をした。驚くほど破廉恥な諸矛盾をその本の中にさらけ出している。党及び政府の一般的な方針に反対する批判の権利だけを認めているジイドは、ソヴェト内でトロツキイストたちの大ぴらな声をきくことが出来ないのを・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・ナチスは、ユダヤ人を追放し、財産を没収し、集団的に虐殺した。ニュールンベルグの国際裁判の公判廷で、ゲーリングは自分らの惨虐をふたたびフィルムの上に展開されて、文字どおり嘔吐したと伝えられている。その命令を下した人物さえ、それを見直すにたえな・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・と笑い乍らニコライ、ちょいと傍の椅子にかけさせてやる、そして自分側に坐り、ユダヤ、グリーク、ロシア聖書参考して聖書翻訳にとっかかり熱心に働く。〔欄外に〕 ニコライ大きい実に堂々たる人、ズク麿さんニコライの腰きりない。それがいつも・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
出典:青空文庫