ウェルダアの桜 大きな河かと思うような細長い湖水を小蒸気で縦に渡って行った。古い地質時代にヨーロッパの北の半分を蔽っていた氷河が退いて行って、その跡に出来た砂原の窪みに水の溜ったのがこの湖とこれに連なる沢・・・ 寺田寅彦 「異郷」
・・・に似ているといわれる義太夫も、おそらく他のヨーロッパ人に比べては、いくらかよりよくロシア人に理解される可能性がありはしないか。 しかし、結局、文楽や俳諧のようなものは、西洋人には立ち入ることのできない別の世界の宝石であろう。そうして、西・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・ この表中にヨーロッパやアメリカなどの火山が出て来るのを見て笑う人もあろうと思うが、しかし南洋語と欧州語との間の親族関係がかなり明らかにされている今日、日本だけが特別な箱入りの国土と考えるのはあまりにおかしい考えである。これについてはど・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
ユーゴーは『哀史』の一節にウォータールーの戦いを叙してこう云っている。「もし一八一五年六月十七日の晩に雨が降らなかったら、ヨーロッパの未来は変っただろう」と。雨が降って地面が柔らかくなり、ナポレオンが力と頼む砲兵の活動に不・・・ 寺田寅彦 「戦争と気象学」
・・・いよいよヨーロッパへ来たのかと思った。夕食時にはメッシナ海峡の入り口へかかった。左にエトナが見える。富士山によく似ているという人もあったが、自分の感じはまるでちがっていた。右舷の山には樹木は少ないが、灰白色の山骨は美しい浅緑の草だか灌木だか・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・ ヨーロッパ中の色々な国をあるき廻ったが、税関の検査はほとんど形式だけのものであった。ロシアは八かましいと聞いていたから、自ら進んでスートケースの内容を展開しようとしたら税関吏の老人はニコニコしながら手真似で、そうしなくてもいいと制する・・・ 寺田寅彦 「チューインガム」
・・・然るに十九世紀に入っては、ヨーロッパという一つの歴史的世界に於てドイツとフランスとが対立したが、更に進んで窮極する所、全世界的空間に於て、ドイツとイギリスとの二大勢力が対立するに至った。これが第一次世界大戦の原因である。十九世紀は国家的自覚・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・これは、本当は、ヨーロッパの方のやり方なんですよ。向こうでは、僕たちのように仲のいいものがほかの人に知れないようにお話をする時は、みんなこうするんですよ。僕それを向こうの雑誌で見たんです。ね、あの倉庫のやつめ、おかしなやつですね、いきなり僕・・・ 宮沢賢治 「シグナルとシグナレス」
一 第二次ヨーロッパ大戦は、私たち現世紀の人間にさまざまの深刻な教訓をあたえた。そのもっとも根本的な点は国際間の複雑な利害矛盾の調整は、封建的で、また資本主義的な強圧であるナチズムやファシズムでは・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・そして、明治維新という不具なブルジョア革命は、事実ヨーロッパにおけるように市民による革命ではなくて、下級武士とその領主たちが、一部にふるいものをひきずったままでの近代資本主義社会への移行であった。明治維新の誰でも知っているこういう特質は、「・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
出典:青空文庫