・・・こんな幼稚なものでも当時の子供に与えた驚異の感じは、おそらくはラジオやトーキーが現代の少年に与えるものよりもあるいはむしろ数等大きかったであろう。一から見た十は十倍であるが、百から見た同じ十はわずかに十分の一だからである。今の子供はあまりに・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・もっとも普通の世間の人の口にする科学という語の包括する漠然とした概念の中には、たとえばラジオとか飛行機とか紫外線療法とかいうようなものがある。しかしこれらは科学の産み出した生産物であって学そのものとは区別さるべきものであろう。また通俗科学雑・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・蝉の声には慣らされるが、ラジオの舌にはなかなか教育されるのに骨が折れる。 夕方歩いていたら、湯川の沢の蘆原の中で水鶏が鳴いていた。朝でなくても鳴くのである。ずっと離れた山すそにも、もう一羽別のが鳴いていた。沢のがだんだん近づいて行って、・・・ 寺田寅彦 「軽井沢」
・・・ そして、私たちの考える能力をこれまでのかたくるしい修養修養という型からの〔数字分破損〕自発的な一日の計画に敬意をはらって日本のラジオも、民衆のエイチに信頼し立派な音楽でも送ってゆくようになりたいものだと思います。〔一九四六年九月〕・・・ 宮本百合子 「朝の話」
・・・ 東京裁判のラジオをきいている私たちの心の苦痛はいかばかりであろう。私たちは、世界の女性に向って叫びたいとおもわないだろうか。私たち日本人がすべてこういう兇暴な本性をもっているとはおもわないでください! と。日本にあふれている寡婦の涙を・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・この人の左まわり右へは、さき頃のラジオ討論会、「宗教と科学は両立するか」の時の話し方で聴取者の腹の底までしみ渡りました。渡辺氏は、宗教が、たとえば宗教裁判や戦争挑発によって過去に人類的罪悪を犯したのは――反科学的であったのは、宗教が宗教の外・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ ラジオの国民歌謡は、男は国の守りとして外へ出てゆき、家を守り家業にいそしむこそ女であるもののつとめであるとくりかえし歌っている。岡本かの子さんのような芸術家は、和歌に同じような思想をうたい、女の家居の情を描いておられる。だが、現実の今・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・「意識の上では自分の独立判断でやっていると思うが、その基礎になっている新聞とかラジオとかをみると、ある一つの政治的勢力が大きな触手をのばして一つの方向にひきずってゆこうという効果をあげている」「人間をカラッポにして全部外へはみ出させてキャナ・・・ 宮本百合子 「アメリカ文化の問題」
或る心持のよい夕方、日比谷公園の樹の繁みの間で、若葉楓の梢を眺めていたら、どこからともなくラジオの声が流れて来た。職業紹介であった。 ずっと歩いて行って見たら、空地に向った高いところに、満州国からの貴賓を迎えるため赤や・・・ 宮本百合子 「或る心持よい夕方」
・・・昨夜もラジオを聞いていると、街の探訪放送で、脳病院から精神病患者との一問一答が聞えて来た。そして、終りに精神科の医者の記者に云うには、「まア、こんな患者は、今は珍らしいことではありません。人間が十人集れば、一人ぐらいは、狂人が混じってい・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫