・・・同時に何人でもリアリストたらざる作家はない。」と云う意味を述べた一節がある。現代の作家は彼の云う通り大抵この傾向があるのに相違ない。しかし現代の作家の中でも、最もこの傾向の著しいものは、実に菊池寛自身である。彼は作家生涯を始めた時、イゴイズ・・・ 芥川竜之介 「「菊池寛全集」の序」
・・・不死身の麟太郎だが、しかしあくまで都会人で、寂しがりやで、感傷的なまでに正義家で、リアリストのくせに理想家で――やっぱりそんな武田麟太郎が「ひとで」の中に現れていた。悲しい姿であった。日本が悲しくなってしまったように、武田さんも悲しくなって・・・ 織田作之助 「武田麟太郎追悼」
・・・ただ、ここでは、私の西鶴観は「西鶴はリアリストの眼を持っていたが、書く手はリアリストのそれではなかった」というテエマから出発していることを言って置こう。これは即ち私にとっては、西鶴は大坂人であったということを意味する。もっとも、こう言ったか・・・ 織田作之助 「わが文学修業」
・・・すでに女を知ってしまった中年のリアリストの恋愛など学生は軽蔑してあわれんでおればいい。それは多くは醜悪なものであり、最もいい場合でも、すでに青春を失ってしまったところの、エスプリなき情事にすぎないからだ。 二 倫理的憧憬と恋・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・それがリアリストというもんかな? 彼には、人の悪い、鷹のようなところがある。自分では理由をつけて俺等は、多くの屍をふみ越して、その向うへ進んで行かなければならない。同志の屍を踏みこして。それから敵の屍をふみこして、と。だが、彼が云うようなこ・・・ 黒島伝治 「自画像」
・・・ この女中さんは、リアリストのようである。ひどく、よそよそしい。「どこか、名所は無いだろうか。」「さあ、」女中さんは私の袴を畳みながら、「こんなに寒くなりましたから。」「金山があるでしょう。」「ええ、ことしの九月から誰に・・・ 太宰治 「佐渡」
・・・だから、僕は、リアリストはいやだ。も少し、気のきいたことを言ってもらいたいね。どうせ、その金は、君のものさ。僕の負けさ。どうも、不言実行には、かなわない。」私は、しきりと味気なかった。「金を出せ。」また、言った。 私は、声のほうへ、・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・あたしは、とてもリアリスト。知っているのよ。あなたの言うこと、わかっているのよ。知っていながら、それでも、もしや、という夢、持ちたいの。持っていたいの。笑わないでね。あたしたち、永遠にだめなの。わるくなって行くだけなの。知っている。ああ、い・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・ わがリアリスト、これこそは、君が忍苦三十年の生んだ子、玉の子、光の子である。 この子の瞳の青さを笑うな。羞恥深き、いまだ膚やわらかき赤子なれば。獅子を真似びて三日目の朝、崖の下に蹴落すもよし。崖の下の、蒲団わするな。勘当と言って投・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・ ゴンクールが自然主義作家であったが、大なるリアリスト作家でなかった所以。 そして、フランスの知識人は、彼等の人生に正当なおき場所で政治をうけとり直すために全く大きい自己の犠牲と努力を要したのである。 ○・・・ 宮本百合子 「折たく柴」
出典:青空文庫