・・・の決定権にゆだねているのではないのだから、作品もリアリティーにおいて分裂し失敗している。リベディンスキーの作品「英雄」が一九三〇年前後のソヴェト大衆から逃げ場のない批判をうけたのも、彼が新しいおもちゃとしかけた心理分析の興味とそれによる失敗・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・その雁金の存在と醤油製造、乾物製造についての発明の過程や、久内の父である山下博士の雁金に対する学閥を利用しての資本主義的悪策など、それらがわたしたちの現実の見かたから批判すれば、リアリティーをもって描かれていないと批評したところで、作者横光・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・という言葉で考えている主人公をとおして、作者は、すべての情景、思索、行動をいつも深見進介の肉体、感覚を通じてのみ作品の世界のリアリティーとしてもちこんできています。こういう手法もこの作品の特長だと思います。深見進介の眼の虹彩のせばまるところ・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・夜も眠らない稲草人の前に、一つ一つくりひろげられる貧しい農家の老婆が害虫と闘い生活と闘う姿や、飲んだくれの夫に売られることを歎いて、投身して死ぬ漁婦の独白は読者の心魂に刻み込まれて消すことの出来ないリアリティーをもって描かれている。 そ・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・老年の叡智と芸術家としての不撓な洞察が、人間社会生活の現実の細部とその底流を観破ること益々具体的であるという状態であって、はじめて自然と人間関係についての見かたも、そのリアリティーと瑞々しさとを保ち得るのである。 日本の現実は多難であり・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・人類は、そんな卑劣な生存ではない。リアリティーはゴム製人形の陳列棚ではない。生きる情熱は、よかれあしかれ、しぶきをあげて波うち、激し、鎮静し、その過程に何らかの高貴さを発現するものである。 伝記というものも、こういう歴史そのものの本質に・・・ 宮本百合子 「なぜ、それはそうであったか」
・・・よしや、それらの文学者のうちに、盲目と無力の要素が少なからず存在しているにしろ、やはりそこには、一九三三年には見られなかった日本の一九五〇年代のリアリティーがある。 権力は常に保守の要素をもつ。文学の本質は、人間性のうちにある抑えがたい・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・ヴォドピヤーノフのように万腔の科学性が万腔の人間的諸要素と結合して、空想そのものが巨大なリアリティーへの可能の導きであるような小説が決して書かれずに、科学を種とする人間の想像力というものが、架空な、知識の遊戯である探偵小説のなかに浪費されて・・・ 宮本百合子 「文学のひろがり」
・・・志賀直哉氏の人為及び芸術の魔法の輪を破るには、志賀氏の芸術の一見不抜なリアリティーが、広い風波たかき今日の日本の現実の関係の中で、実際はどういう居り場処を占めているものであるか、何の上にあって、しかくあり得ているかを看破しなければならないの・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・ 小市民、インテリゲンツィアの生活からの取材によって描かれている作品でも、その作品が全体としては労働者階級の立場に立って社会的現実のリアリティーを描きだしており、日本の社会発展の下で、その主題が発展のモメントに立って扱われている場合それ・・・ 宮本百合子 「両輪」
出典:青空文庫