・・・芝居の台詞みたいな一種リズミカルな口調でもって、「君、僕は泣いているのじゃないよ。うそ泣きだ。そら涙だ。ちくしょう! みんなそう言って笑うがいい。僕は生れたときから死ぬるきわまで狂言をつづけ了せる。僕は幽霊だ。ああ、僕を忘れないで呉れ! 僕・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・ これらの人工映画のもつ特徴は、これらの単純なる影や線のリズミカルな活動によってそこに全く特別な新しい世界を創造するという可能性の中に存する。シルエットの世界には遠い遠い過去の人生の幻影といったようなものの笹べりが付帯している。ここから・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ ロシア映画で常に気づくことはカメラの向け方から来る構図の美しさ、ことにまた画面における線や明暗のリズミカルな駆使である。「大地」の場合においても、たとえば三人の管理人が小高い所へ立って桜ん坊か何かつまんでは吐き出しながらトラクターの来・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・おかずがあっても、おしまいの一膳はお茶づけにして、ほんとにサラサラと流しこむのだったが、おいしそうにひとしきりたべてさてお香のものへ移るというとき、おゆきはきまってリズミカルに動かしていたお箸を、そのリズムのまま軽く茶碗のふちへ当てて一つ小・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・ケーテの幼い心に印象づけられた最初のリズミカルな生活の姿はその船の情景であった。屋敷のなかの二つの空地の間に建物があって、そこが石膏の型をこしらえる仕事場になっていた。型からぬきとられてその中に置かれているさまざまの石膏の像は、いつもシュミ・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・ここの体操の先生はいやにリズミカルで、机に向っていると勢よく、「さーア手をあげて! ハッハッハッハッ」とそういう風なのです。「そら! ホイ、ハッ」そういうの。何だか少し野師のようでしょう? でもこの小学校のせいで、私は何年ぶりかで土曜日の午・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 戦後の子供がラジオを通じレコードを通じ、なじんで歌う歌は、軽快に、明るくたのしく、リズミカルであるように、と児童の心理に即して選ばれている。君が代が歌そのものとして、歌う子供たちにわけのわからない義務感しか与えていないとすれば、君が代・・・ 宮本百合子 「修身」
・・・ 仕事着を着たチュダコフと数人のその仲間の動作は、常に綜合的にリズミカルに統一され、チュダコフの発明した何かの機械は、舞台の上へは形を現わさない。発明家とその同志が、手を組み合せ、大事に、重そうに、やっこらと物を運ぶしぐさでだけ暗示的に・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・並んだ梶は栖方の歩調に染ってリズミカルになりながら、割れているのは群衆だけではないと思った。日本で最も優秀な実験室の中核が割れているのだ。 栖方が待たせてあると云った自動車は、渋谷の広場にはいなかった。そこで二人は都電で六本木まで行くこ・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫