・・・ 又 打ち下ろすハンマアのリズムを聞け。あのリズムの存する限り、芸術は永遠に滅びないであろう。 又 わたしは勿論失敗だった。が、わたしを造り出したものは必ず又誰かを作り出すであろう。一本の木の枯れるこ・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・ 前にも云ったように、幾度快よいリズムをくりかえしても、如何に柔かな感じや、快よい気分をそゝろうとしても、既に覚醒きっている心の人には、何らの新しいものとなっては響かない。たゞ単的に古い文化を破壊し、来るべき新文化の曙光を暗示するものの・・・ 小川未明 「詩の精神は移動す」
・・・そして、日本の文芸にはこの紋切型が多すぎて、日本ほど亜流とマンネリズムが栄える国はないのである。 私はかねがね思うのだが、大阪弁ほど文章に書きにくい言葉はない。たとえば、大阪弁に「そうだ」という言葉がある。これは東京弁の「そうだ!」と同・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・そのうちに私の耳はそのなかから機を織るような一定のリズムを聴きはじめたのです。手の調子がきまって来たためです。当然きこえる筈だったのです。なにかきこえると聴耳をたてはじめてから、それが一つの可愛いリズムだと思い当てたまでの私の気持は、緊張と・・・ 梶井基次郎 「橡の花」
・・・ボタンの列の終ったところで、きゅっと細く胴を締めて、それから裾が、ぱっとひらいて短く、そこのリズムが至極軽妙を必要とするので、洋服屋に三度も縫い直しを命じました。袖も細めに、袖口には、小さい金ボタンを四つずつ縦に並べて附けさせました。黒の、・・・ 太宰治 「おしゃれ童子」
・・・ちょっと聞くと野蛮なリズムのように感ぜられる和尚のめった打ちに打ち鳴らす太鼓の音も、耳傾けてしばらく聞いていると、そのリズムの中にどうしようもない憤怒と焦慮とそれを茶化そうというやけくそなお道化とを聞きとることができたのである。紋服を着て珠・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・そういう操作のために糸車の音に特有なリズムが生ずる。それを昔の人は「ビーン、ビーン、ビーン、ヤ」という言葉で形容した。取っ手の一回転が「ビーン」で、それが三回繰り返された後に「ヤ」のところで糸が巻き取られるのである。「ビーン」の部で鉄針とそ・・・ 寺田寅彦 「糸車」
・・・同じ線のリズムの余波は、あるいは衣服の襟に、あるいは器物の外郭線に反映している。たとえば歌麿の美人一代五十三次の「とつか」では、二人の女の髷の頂上の丸んだ線は、二人の襟と二つの団扇に反響して顕著なリズムを形成している。写楽の女の変な目や眉も・・・ 寺田寅彦 「浮世絵の曲線」
・・・ 口調というものの最も主要な要素の一つは時間的のリズムであるが、和歌や俳句のようなものでは、これは形式上の約束から既にある範囲内に規定されている。勿論その範囲内でも、例えば七、五の「七」を三と四に分けるか二と五に分けるかというような自由・・・ 寺田寅彦 「歌の口調」
・・・砂を敷いた平庭に数個の石を並べるだけでもその空間的モンタージュのリズムによって、そこに石の言葉でつづられた、しかも石によってのみつづられうる偉大なる詩が生じるのである。また一枚の浮世絵からでもわれわれはいろいろなモンタージュの手法を発見する・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
出典:青空文庫