・・・その少女は、二つにわけて組んだ髪を、うなじのところに左右から平たくもって来て、耳のうしろにまとめ、その両方の端にリボンをつけているのであった。 季節も春であったろうか。私はややしばらくその絵に見とれていたが、やがて、母の鏡の前へ行って、・・・ 宮本百合子 「青春」
・・・ 先ず風から見ると、頭髪をわけ、うしろでまるめるはよいが、白いゴムに光る碧石が入った大きなお下げどめをし、紺サージの洋服に水色毛糸帽同色リボンつきといういでたち。顔に縦じわ非常に多く、すっかりあかのつまった長い爪、顔の色あかぐろく、やせ・・・ 宮本百合子 「一九二三年冬」
・・・赤いリボンで飾ったレーニンとクララ・ツェトキンの肖像画、『労働婦人』二年間の購読券。アガーシャ小母さんが踊る間、それは今ニーナが笑いながら大事に抱えて持ってやっている。 労農通信員のマルーシャが、みんなにからかわれながら、額におちてくる・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の三月八日」
・・・五つ位の娘であった私の茫漠とした記憶の裡に、暗くて睡い棧敷の桝からハッと目をさまして眺めた明るい舞台に、貞奴のオフェリアが白衣に裾まである桃色リボンの帯をして、髪を肩の上にみだし、花束を抱いて立っていた鮮やかな顔が、やきつけられたようにのこ・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・ 私は母のするなりに黒いリボンをかけられ、あまり笑ったりはしゃいだり仕ない様にと云われるままに慎しんで居る丈だった。 この時分の心持を今私の目前に育って居る丁度同い年位の弟にくらべるとまるで及びも付かない程私の心は単純であった。・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・私は、それに黒いリボンをつけ、大変大切に愛してもっていた。袴をはいたときは、袴の紐にその黒いリボンをからみつけて。 或る日、急に八重洲町の事務所にいる父に会わなければならない用が出来た。どういう道順であったか、上野の山下へ出た。そこで自・・・ 宮本百合子 「時計」
・・・ ちょんびりな髪をお下げに結んで、重みでぬけて行きそうなリボンなどをかけて、大きな袂の小ざっぱりとしたのを着せられて居る。 あんまりパキパキした子ではないけれ共小憎らしいと云う様なところの一寸もない子であった。 兄達が毬投げなん・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・そして一そう成人ぶった顔もし、眼の端から泣いて何か母親に訴えている娘や、心配そうに本を出して見ているリボンの後姿を眺めた。―― 第一日の試験に出来たつもりの算術が大抵ちがっていたのを知って、自分はどんなに涙をこぼしただろう。また、到底駄・・・ 宮本百合子 「入学試験前後」
・・・化粧品店には、あざやかな掛ける人もないリボンや新ダイヤの入った大きな櫛や髱止が娘達の心を引いて光って居る。「おともさん」が縫いあげた、帯だの、着物だのの賃銀を主屋の方に行ってもらって居る呉服屋の店先で、私は祖母の胴着と自分の袖にするメリ・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ 後れ先立つ娘の子の、同じような洗髪を結んだ、真赤な、幅の広いリボンが、ひらひらと蝶が群れて飛ぶように見えて来る。 これもお揃の、藍色の勝った湯帷子の袖が翻る。足に穿いているのも、お揃の、赤い端緒の草履である。「わたし一番よ」・・・ 森鴎外 「杯」
出典:青空文庫