・・・しかも眼だけはその間も、レクラム版のゲエテの詩集へぼんやり落している彼だった。……「兄さん。試験はまだ始らなかった?」 慎太郎は体を斜にして、驚いた視線を声の方へ投げた。するとそこには洋一が、板草履を土に鳴らしながら、車とすれすれに・・・ 芥川竜之介 「お律と子等と」
・・・ 或るレクラム版の翻訳の金が入ったところで、彼等はそれから江戸川べりの鳥屋へ行った。十四ばかりの愛くるしい娘がいた。尾世川がいくら訊いても笑って本名を教えない。尾世川は勝手に鳥ちゃん、鳥ちゃんとその娘を呼んだ。 三・・・ 宮本百合子 「帆」
・・・しかし今では Reclam 版になっていて、誰でも読む。Proudhon は Besanベサンソン の貧乏人の子で、小さい時に、活字拾いまでしたことがあるそうだ。それでもとうとう巴里で議員に挙げられるまで漕ぎ付けた。大した学者ではない。スチ・・・ 森鴎外 「食堂」
・・・君が服せぬと、私は旅中にも持っている Reclam 版の Goethe などを出して証拠立てる。こんな応対がなかなか面白いので、私も君の来るのを待つようになった。 天気の好い土曜、日曜などには、私はF君を連れて散歩をした。狭い小倉の町は・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫