・・・芸者上りの彼女は純白のドレスの胸にピンクの薔薇をつけて、頭には真紅のターバン、真黒のレースの手袋をはめている許りか、四角い玉の色眼鏡を掛けているではないか。私はどんな醜い女とでも喜んで歩くのだが、どんな美しい女でもその女が人眼に立つ奇抜な身・・・ 織田作之助 「世相」
・・・して居るものが沢山ありますが、馬琴においては、三勝・半七を描きましてもお染・久松を描きましても、それをかなり隔たった時にして書きまして、すべてに、これは過ぎた昔の事であるという過去と名のついた薄い白いレースか、薄青い紗のきれのようなものを被・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・顔のまわりの白いレースがちょうど白百合の花びらのようでした。それを見るとおかあさんは天国を胸に抱いてるように思いました。 ふと子どもは目をさまして水を求めました。 おかあさんはだまっているほかありませんでした。 子どもは泣きだし・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎 「真夏の夢」
・・・髪の毛をレースのように編んで畳み込み、体の彼方此方に飾りを下げ、スバーの自然の美しさを代なしにするに一生懸命になりました。 スバーの眼は、もう涙で一杯です。泣いて瞼が腫れると大変だと思う母親は、きびしく彼女を叱りました。が、涙は小言など・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・従って私が茲処にこう立っていると、私はこれでヒューマン・レースをレプレゼントして立っているのである。私が一人で沢山ある人間を代表していると、それは不可ん君は猫だと意地悪くいうものがあるかも知れぬ。もし貴方がたがこういったら、そうしたら、いや・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・ほんの僅かな白雲が微に流れて端の枝を掠め、次の枝の陰になり、繊細な黒レースのような真中の濃い網めを通って彼方にゆく。 庭の隅でカサカサ、八ツ手か何かが戦ぐ音がした。 チュッチュッ! チー チュック チー。…… 暖い日向は、白い寝・・・ 宮本百合子 「或る日」
・・・今思えば、白いレース・カーテンのような布地をふわり長くこしらえて、カフスのところとカラーのところが水色の絹うち紐でしぼられ、その紐が飾り房としてたれていた。その服を着て、海老茶色のラシャで底も白フェルトのクツをはいた二十九歳の母が、柔かい鍔・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・ じいっと眼をつぶると、レースのたっぷりついた短かい白い着物を着て、肩まで、丁寧にした巻毛をたれて、ムクムクした足で踊る様に足拍子を取って、私に手を引かれて歩く様子が、あざやかに、目に浮いて来る。 心の立ち勝った妹を助手として持つと・・・ 宮本百合子 「暁光」
・・・ 庭の真中に突立って自信のあるらしい様子をして居る青桐がめっきり見すぼらしくなり下って、あの古ぼけたレースをぶら下げた様な葉の姿を見るといやだと外思い様がない。 白髪頭を振りたてて日かげのうす暗く水臭い流し元で食物をこね返して居る貧・・・ 宮本百合子 「後庭」
・・・単衣の下に見えて居るレースが、私共の肌襦袢について居るのとそっくりに見える。訝しく、襟元を見ると、あたりまえに襟をつけず、深くくって細い白羽二重の縁がとってある。私共はいつもそういうのを着て居る。肌について居るものだから、いきなり、それお前・・・ 宮本百合子 「木蔭の椽」
出典:青空文庫