・・・うて行くものでなければならず、不安と混乱と複雑の渦中にある人間を無理に単純化するための既成のモラルやヒューマニズムの額縁は、かえって人間冒涜であり、この日常性の額縁をたたきこわすための虚構性や偶然性のロマネスクを、低俗なりとする一刀三拝式私・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・そう言い捨てて又二階へ上り、其の「ロマネスク」という小説を書き続けて居ると、又も、佐吉さんの一際高い声が聞えて、「酒が強いと言ったら、何と言ったって、二階の客人にかなう者はあるまい。毎晩二合徳利で三本飲んで、ちょっと頬っぺたが赤くなる位・・・ 太宰治 「老ハイデルベルヒ」
・・・あなたの小説を、にっぽん一だと申して、幾度となく繰り返し繰り返し拝読して居る様子で、貴作、ロマネスクは、すでに諳誦できる程度に修行したとか申して居たのに。むかしの佳き人たちの恋物語、あるいは、とくべつに楽しかった御旅行の追憶、さては、先生御・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・「思い出」など、読んで面白いのではないでしょうか。きっと、あなたは、大笑いしますよ。それでいいのです。「ロマネスク」なども、滑稽な出鱈目に満ち満ちていますが、これは、すこし、すさんでいますから、あまり、おすすめできません。 こんど、ひと・・・ 太宰治 「「晩年」に就いて」
これは、いまから、四年まえの話である。私が伊豆の三島の知り合いのうちの二階で一夏を暮し、ロマネスクという小説を書いていたころの話である。或る夜、酔いながら自転車に乗りまちを走って、怪我をした。右足のくるぶしの上のほうを裂い・・・ 太宰治 「満願」
・・・となり「ロマネスク」の愛好となって賑やかに示威されている。 正宗白鳥の「日本脱出」は、一部の批評家によると、日本のニヒリストが、現代ロマネスクのチャンピヨンとしてあらわれた驚異の一つであったようだ。「脱出」という言葉を日本の文学の上・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・モードについて書かれている記事の中に、ロマネスクは目下モードにおける国際的傾向であると書かれているとき、むずかしい言葉でかいてあるわ、と批難する娘さんたちはいない。日本の娘のおどろくような順応性で、国際的モードといえば、世界中どこでもという・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
・・・黒い髪に対して真赤な爪はどんな色彩効果かということは考えられていず、胴長に、ロマネスクのモードの滑稽なあわれさが自覚されていない。商店の広告はアメリカ広告の植民地的真似をしている。自主的な批判力のまだつよめられていない日本の社会の心理に、半・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・杯、笛、匙などは、どこで見ても、ヨーロッパのロマネスクの作品と比し得べき芸術品であった。 しかもこれらすべては、美しく熟した果物の表面を飾っている柔らかい色づいた表皮のようなものである。その下に美味な果肉がある。すなわち民族全体は、最も・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫