明治二十年代の日本のロマンティシズムの流れの中からは、藤村、露伴をはじめいろいろの作家が生れたわけだけれども、樋口一葉は、その二十五年の生涯が短かっただけに、丁度この時代のロマンティシズムが凝って珠玉となったような「たけく・・・ 宮本百合子 「人生の風情」
・・・私はこの作家によって意企されている美しい荒々しさというようなものが、八〇年代のロシア・インテリゲンチアの世界観に対して、新たな階級の感情として生れたゴーリキイの初期のロマンティシズムとは全く異った性質をもつものであると感じる。作者が従来生き・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・ 明治四十年代の荷風のデカダニズムはさきにふれたように、正面から日本の歴史的軛に抗議することを断念した性格のものであったし、大正年代に現われた谷崎潤一郎などのネオ・ロマンティシズムの要素も、同時代に擡頭した武者小路実篤のヒューマニズムと・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・余技のように作品を書いて来ていて、初めの頃は異国情調や宗教的色彩の濃いロマンティシズムに立つ作品であったという人が、一九三四年七月の『文学』にこの「春桃」を発表した。 新しい中国の知識人として、彼が享けた西欧の教養が、初めは漫然とヨーロ・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・それらが、美化された労働・労働を眺めるもののロマンティシズムにたって謳われていることだけを云々するのは妥当を欠くであろう。藤村の歴史性、個人の境遇的な特質が、こういう風に積極的に人間と自然との結びつきを謳ってもなお歴然たるところに、未来の詩・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・渡辺与平、竹久夢二などがその時代の日本の空気のもっていた女の解放へ目をむけたロマンティシズムを或る点で表象していたような関係はないのである。 少女時代から、立派な芸術的古典にじかにふれて、その感傷も向上の欲求もその芸術的感覚のなかで成長・・・ 宮本百合子 「日本文化のために」
・・・ こういうロマンティシズムに対して、近代精神の特長である現実に対する追求力リアリスティックな探求心は驚くべき熱中と執拗さをもって、恋愛と結婚と家庭の「神聖」の仮面をはいだ。モーパッサンのほとんど唯一の傑作である「女の一生」を読んだ人は、・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・子は野バンナという形容詞にはっとした、それは彼女が感じていたものだったが、ヤバンと云い切れなかったものだった、 芸術至上主義者であって、そうあり切れなかった彼、強くリアリスティックになれない彼、ロマンティシズム 美を歴史的素材 エキゾ・・・ 宮本百合子 「「敗北の文学」について」
・・・一葉は明治の初め、自然主義が起ろうとする頃、それに対抗して活溌な文芸批評などを行っていた森鴎外を先頭とし、若い島崎藤村その他によって紹介されたヨーロッパのロマンティシズムの影響をうけながら、一葉自身がもっていた日本風の昔気質のような気分――・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・それは文学流派としてどのようなロマンティシズムでも、シュールでも、スリラーでも、とどのどんづまりのところでは、その手法で描かれた世界が、読者に実感としてうけいれられるリアルなものとして形象化し、かたちづくって行かなければならないという現実で・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
出典:青空文庫