・・・それはとにかく彼がミュンヘンの小学で受けたローマカトリックの教義と家庭におけるユダヤ教の教義との相対的な矛盾――因襲的な独断と独断の背馳が彼の幼い心にどのような反応を起させたか、これも本人に聞いてみたい問題である。 この時代の彼の外観に・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・えても、灰色の昔から、日のいずる方を求めて世界のあらゆる方面から自然にこの極東の島環国に集中した種族の数は決して二通りや三通りでなかったであろうということは、われわれの周囲の人々の顔の中にギリシア型、ローマ型、ユダヤ型をはじめインディアン型・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
・・・ 滞欧中のある冬にイタリアへ遊びに行った。ローマの大学を訪ねたとき、物理学教室の入口に竹の一叢を見付けてなつかしい想いをした。その日の夕方、ホテルの食堂で食事のあとに出した菓物鉢の数々の果物の中にただ一つ柿の実がのっかっていた。同時に食・・・ 寺田寅彦 「郷土的味覚」
・・・禁欲主義者自身の中でさえその禁欲主義哲学に陶酔の結果年の若いに自殺したローマの詩人哲学者もあるくらいである。映画や小説の芸術に酔うて盗賊や放火をする少年もあれば、外来哲学思想に酩酊して世を騒がせ生命を捨てるものも少なくない。宗教類似の信仰に・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・昔のギリシア人やローマ人はしあわせなことに新聞というものをもたなくて、そのかわりにプラトーンやキケロのようなものだけをもっていた。そのおかげであんなに利口であったのではないかという気がしてくるのである。 ひと月に何度かは今でも三原山投身・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・ ローマから ローマへ来て累々たる廃墟の間を彷徨しています。きょうは市街を離れてアルバノの湖からロッカディパパのほうへ古い火山の跡を見に参りました。至るところの山腹にはオリーブの実が熟して、その下には羊の群れが遊・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・ こんな話を友人のA君に話したら、A君のいうのに、昔ローマを滅ぼしたのは風呂場である、あまり風呂場を鼓吹するのは危険ではないかと。しかしまた考えてみると昔ローマには満員電車というもののなかった事も確かである。 ドイツに居た時は、どう・・・ 寺田寅彦 「電車と風呂」
・・・ このピタゴラスの話がまるで嘘であるとしても、昔のギリシャかローマに何かそれに類する「禁戒」「タブー」「物忌み」といったようなものがあったのではないかという疑いをおこさせるには十分である。 この頃、柳田国男氏の「一つ目小僧その他」を・・・ 寺田寅彦 「ピタゴラスと豆」
・・・フィレンツェ、ローマを経てナポリに着いたのが、ちょうど大晦日であった。妙に生温かい、晴れるかと思うと大きな低い積雲が海の上から飛んで来てばらばらと潮っぽい驟雨を降らせる天候であった。ホテルのポルチエーが自分を小蔭へ引っぱって行って何かしら談・・・ 寺田寅彦 「二つの正月」
緒言 今からもう十余年も前のことである。私はだれかの物理学史を読んでいるうちに、耶蘇紀元前一世紀のころローマの詩人哲学者ルクレチウスが、暗室にさし入る日光の中に舞踊する微塵の混乱状態を例示して物質元子におい・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
出典:青空文庫