・・・この辞典において、リアリズムに連関して現れている芸術家はゾラ、フローベル、モネ、セザンヌ等であり、しかも編者は明瞭な言葉でリアリズムの階級性にも言及している。「我々マルクス主義者の云うリアリズムをはき違えて、あたかもそれが十九世紀後半の写実・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・の初日に滝沢氏の演じられた弟の独白の場面で、舞台の一隅に置かれた枝蝋燭立てから一本の燃えているローソクが舞台の上に落ちました。そこは貴族の室内である。弟は陰険奸悪な陰謀者である。彼は一人で室内を行きつ戻りつしながら、古典劇らしく自身の悪計を・・・ 宮本百合子 「一つの感想」
・・・音楽の神はアポローだ。男だ。女をヒイキにしてくれるアポローのおかげで女の音楽家には素晴らしいのが沢山いるのだ。そういう説明でお茶を濁していた。 この解答が、思いつき以外の何でもないことは、誰にでも、ハッキリわかる。 では、ほんとにど・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・日常品の欠乏ははなはだしく、ビールの空壜にローソクがたっていた。たらい、タオル、シャボン、箒、盆、皿、ナイフ、フォーク、スプーンなどという必需品さえなかった。医療材料、薬品も揃っていない。働いている人々といえば無能な医者と官僚主義に頭も心も・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
「道標」のため○猿の毛皮 矢はず形についだ茶色の猿の毛皮 余りおもくなくて丈夫な○ガローシをぬぐ つぎに外套をぬぎ すき間風をふせぐためにくびのまわりにまいているネッカチーフをとる。そうするとどんな女も・・・ 宮本百合子 「無題(十三)」
・・・ クリスマスそのものが、誰の降誕祭かと云えばイエス・キリストで、眼の丸かった赤坊ウォロージャの誕生日ではない。ロシア語はろくに読めないが、国立出版所で插画が面白いから買った本が一冊ある。題は「聖書についての愉快な物語」。第一頁をやっとこ・・・ 宮本百合子 「モスクワの姿」
・・・と口では叫んだが、政権はブルジョアに握らせて置こうとする、ケレンスキー内閣がそういうスローガンを実行する筈はない。 ボリシェヴィキは火花のような言葉でそれをあばき大衆の熱望をとらえている。 戦艦オーロラーが、冬宮を砲撃した時・・・ 宮本百合子 「ロシアの過去を物語る革命博物館を観る」
・・・マリー・ローランサンは、彼女の幻想の花や少女を独特の灰色、白、桃色、黒緑で、粋に病的に描く。二流、三流の通俗画家が、凡庸な構図とあり来りな解釈とで、神話の男神、アポロー、パンまたは、キリスト教の聖徒などを描いた他、或る女流画家の特殊な稟性に・・・ 宮本百合子 「わからないこと」
出典:青空文庫