・・・急に音楽、薔薇のワルツ。ああ、おかしい、おかしい。現実は、この古ぼけた奇態な、柄のひょろ長い雨傘一本。自分が、みじめで可哀想。マッチ売りの娘さん。どれ、草でも、むしって行きましょう。 出がけに、うちの門のまえの草を、少しむしって、お母さ・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・朝になる時と、日が暮れる時に、美しいワルツが聴えて来ました。おじさん、元気でいて下さい。」 だらだらと書いてみたが、あまり面白くなかったかも知れない。でも、いまのところ、せいぜいこんなところが、私の貧しいマリヤかも知れない。実在かどうか・・・ 太宰治 「俗天使」
・・・七八人のようではありましたが、たしかにもうほんもののオーケストラが愉快そうなワルツをやりはじめました。一まわり踊りがすむとみんなはばらばらになってコップをとりました。そしてわあわあ叫びながら呑みほしています。その叫びは気のせいか、デストゥパ・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・田舎らしい単純と、避暑地のもつ軽快な華美とが見えない宙で溶け合って、一種の氛囲気を作っている此処では、人間の楽しい魂が、何時も花の咲く野山や、ホテルの白い水楼で古風なワルツを踊っているような気がする。 濃碧の湖には笑を乗せて軽舸が浮く。・・・ 宮本百合子 「追慕」
・・・ そうして観て行って、成功したカッスル夫妻の様々な新しい踊りの姿、カッスルの出征、やがて二人が最後に一緒におどる踊り、カッスルは軍服で、カッスル夫人は白い装でおどるあのワルツ風の踊りは、実に美しかった。磨きぬかれた舞踊の技術と情緒の含蓄・・・ 宮本百合子 「表現」
出典:青空文庫