・・・ 寿子はあわててヴァイオリンをピアノの上に置くと、隣の部屋へかけ込んで、汗だらけのシュミーズの上に、よれよれの、しかし花模様のついたワンピースを着た。二 上本町七丁目の停留所から、西へ折れる坂道を登り詰めると、生国魂の表・・・ 織田作之助 「道なき道」
・・・粗末なワンピースを着て、少しお化粧して、こっそり家を出た。 井の頭。もう日が暮れかけていた。公園にはいると、カナカナ蝉の声が、降るようだった。御殿山。宝亭は、すぐにわかった。料亭と旅館を兼ねた家であって、老杉に囲まれ、古びて堂々たる構え・・・ 太宰治 「花火」
・・・雨になって直ぐ縮むような縮緬の服をつくるより、麻のワンピース、木綿の着物、雨が降っても大丈夫な長靴が欲しいし、そういう生活の役に立つ服装がすべての人に余り差別なく出来るようでありたいと思う。私たちが衣服についてもつ希望や要求はこんなに遠大な・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・ 名のとおり日本服を改良して、洋装との間にしようとした改良服は、上を、つつ袖の口をひらひら飾りにし、うち合わせ襟で、スカートの部分とくっつけたワンピースだった。スカートは袴の伝統をもって、きちんとたたんで襞をつけられ、バンドのうしろは袴・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・同じ一枚のワンピースがほんとうに若い女性の生活をいたわり働く婦人の身だしなみをいたわって、そのように特別に染められた布地で作られているなら、どんなに若い人たちの心の楽しみがふえるでしょう。いろいろな型の切りかえというようなことがいわれるけれ・・・ 宮本百合子 「自覚について」
出典:青空文庫