・・・――ただいまさしあげました鶫は、これは、つい一両日続きまして、珍しく上の峠口で猟があったのでございます。」「さあ、それなんですよ。」 境はあらためて猪口をうけつつ、「料理番さん。きみのお手際で膳につけておくんなすったのが、見ても・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・軽蔑と冷嘲の微笑を浮べて黙って彼の新生活の計画というものを聴いていたが、結局、「それでは仕度をさせて一両日中に遣ることにしましょう」と言うほかなかった。今度だけは娘の意志に任せるほかあるまいと諦めていたのだ。四「俺の避難所は・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・十二月号を今編輯していますので、一両日中に頂けますと何よりです。どうか御聞きとどけ下さいますよう御願い申します。十一月二十九日。栗飯原梧郎。太宰治様。ヒミツ絶対に厳守いたします。本名で御書き下さらば尚うれしく存じます。」「拝復。めくら草・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・それから一両日の間は時々子猫を捜すかと思われるような挙動を見せた事もあったが、それもただそれきりで、やがて私の家の猫にはのどかな平和の日が帰って来た。それと同時に、ほとんど忘れられかかっていた玉の存在が明らかになって来た。 子猫に対して・・・ 寺田寅彦 「子猫」
・・・また出ますと云うたら宿は何処かと聞いたから一両日中に谷中の禅寺へ籠る事を話して暇を告げて門へ出た。隣の琴の音が急になって胸をかき乱さるるような気がする。不知不識其方へと路次を這入ると道はいよいよ狭くなって井戸が道をさえぎっている。その傍で若・・・ 寺田寅彦 「根岸庵を訪う記」
・・・とうとう飼い主の家に相談して一両日静養させてやる事にした。 猫がいなくなるとうちじゅうが急にさびしくなるような気がした。おりから降りつづいた雨に庭へ出る事もできない子供らはいつになくひっそりしていた。 いつもは夜子供らが寝しずまった・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・ 私はその一両日前の新聞記事に巡査が高圧線の切れて垂れ下がっているのを取りのけようとして感電したことが載せてあったのを思い出したので、友人にそれを読んだかと聞いたら読んだという。それならそれがこの夢を呼出した一つの種だろうということにな・・・ 寺田寅彦 「夢判断」
・・・ その時入口の戸の開く音がして、道太が一両日前まで避けていた山田の姉らしい声がした。 道太は来たのなら来たでいいと思って観念していたが、昨日思いがけなく兄のところで見た様子によると、子供のころから姿振に無頓著すぎる質であったとはいえ・・・ 徳田秋声 「挿話」
出典:青空文庫