二日つづけて酒を呑んだのである。おとといの晩と、きのうと、二日つづけて酒を呑んで、けさは仕事しなければならぬので早く起きて、台所へ顔を洗いに行き、ふと見ると、一升瓶が四本からになっている。二日で四升呑んだわけである。勿論、・・・ 太宰治 「酒ぎらい」
・・・くらいはいっている一升瓶を持って来た。「お燗をつけなくていいんですか?」「かまわないだろう。その茶呑茶碗にでも、ついでやりなさい。」 古谷君は、ひどく傲然たるものである。 私も向っ腹が立っていたので、黙ってぐいと飲んだ。私の・・・ 太宰治 「酒の追憶」
・・・九本の一升瓶をずらりと一列に並べて、よくよく分量を見較べ、同じ高さずつ分け合うのである。六升を九等分するのは、なかなか、むずかしい。 夕刊が来る。珍しく四ペエジだった。「帝国・米英に宣戦を布告す」という活字の大きいこと。だいたい、きょう・・・ 太宰治 「十二月八日」
・・・、書きかけの原稿用紙を、ばりばり破って、そのうちに、この災難に甘えたい卑劣な根性も、頭をもたげて来て、こんなに不愉快で、仕事なんてできるものか、など申しわけみたいに呟いて、押入れから甲州産の白葡萄酒の一升瓶をとり出し、茶呑茶碗で、がぶがぶの・・・ 太宰治 「新樹の言葉」
・・・右手に一升瓶、すでに半分飲んで、残りの半分を持参という形。左手には、大きい平目二まい縄でくくってぶらさげている。 奥田せんせい。やあ、いるいる。おう、菊代さんもいるな。こいつあ、いい。大いにやろう。酒もあり、さかなもある。・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・のはまずい、という亭主の返辞で、それならば、君のところに前から手持のお酒で売れ残ったものがないか、それをゆずって貰いたい、と私は言い、亭主から日本酒を一升売ってもらって、私たち二人は何のあてどもなく、一升瓶をさげて初夏の郊外を歩き廻った。・・・ 太宰治 「フォスフォレッスセンス」
・・・底にぽっちり葡萄酒の入っている醤油の一升瓶がじかに傍の畳へ置いてある。ルイコフが、彼のマンドリンと一緒に下げて来たものだ。ルイコフとマリーナはさっき大論判をしたところであった。栗色の髪の薄禿げた、キーキー声を出すエーゴルは、ジェルテルスキー・・・ 宮本百合子 「街」
出典:青空文庫