・・・いかにも人間社会の一大悪事にして、これを救わんとするの議論は誠に貴ぶべしといえども、未だよくこの悪事の原因を求め尽したる者にあらざるが如し。そもそも一国の政府にもせよ、また会社にもせよ、その処置に専制の行わるるは何ぞや。必ずしも一人の君主ま・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・ただし飲酒は一大悪事、士君子たる者の禁ずべきものなれば、その入費を用意せざるはもちろんなれども、魚肉を喰らわざれば、人身滋養の趣旨にもとり、生涯の患をのこすことあるゆえ、おりおりは魚類獣肉を用いたきものなり。一ヶ月六両にては、とても肉食の沙・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾新議」
・・・毎日西瓜の切売を食うような楽みは行脚的旅行の一大利得である。 夏時の旅行は余もしばしばやった事があるが、旅行しながら毎日文章を書いて新聞社に送るという事はよほど苦しい事である。一日の炎天を草鞋の埃りにまぶれながら歩いてようよう宿屋に着い・・・ 正岡子規 「徒歩旅行を読む」
・・・ 二 日本の新聞の歴史は、こうして忽ち、反動的な強権との衝突の歴史となったのであるが、大正前後、第一次欧州大戦によって日本の経済の各面が膨脹したにつれて、いくつかの大新聞は純然たる一大企業として、経営されるようになって来・・・ 宮本百合子 「明日への新聞」
・・・のジャックはそのときまでには次第に確立しかかっていた人間性、よりひろくより総合された社会的理解、理性に立って一大衝撃としての第一次大戦を経験した。悲惨事ながら、それは悲惨事として客観されるだけ成長したジャックの精神によって、経験された。した・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・ このように有効に組織されている小学校へ、全同盟の学齢児童を経費国庫負担で包括しようというのがソヴェト同盟五ヵ年計画文化活動の一大事業だ。 何しろ、帝政時代のロシアの小学校、特に農村の小学校は話の外だった。小学校の教師と云えば月五ル・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・十二月二十四日の都下の諸新聞は、防共三首都の日本景気に氾濫したニュースと共に、四年間に亙った帝人事件が無罪と決定したこと並に、明春建国祭を期して一大国民運動をおこして特に国体明徴、日本精神の昂揚、個人主義、自由主義、功利主義、唯物主義の打破・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 此の一大事実を認めた以上は、われわれはいかに優れたコンミニストと雖も、資本主義と云う社会を、敵にこそすれ、敵としたるがごとくしかく有力な社会機構だと云うことをも認めるであろう。 しかしながら、此の資本主義機構は、崩壊しつつ・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・ただそれのみの完成にても芸術上に於ける一大基礎概念の整頓であり、芸術上に於ける根本的革命の誕生報告となるのは必然なことである。だが、自分はここではその点に触れることは暗示にとどめ、新感覚の内容作用へ直接に飛び込む冒険を敢てしようとするのであ・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・その各自の熱情に従って、その美しき叡智と純情とに従って、もしも其爆発力の表現手段が分裂したとしたならば、それは明日の文学の祝福すべき一大文運であらねばならぬ。そうして、明日の文学は分裂するであろう。大いなる酒神は、かの愚な時計の振り子の如く・・・ 横光利一 「黙示のページ」
出典:青空文庫