・・・が、一段落ついたと見え、巻煙草を口へ啣えたまま、マッチをすろうとする拍子に突然俯伏しになって死んでしまった。いかにもあっけない死にかたである。しかし世間は幸いにも死にかたには余り批評をしない。批評をするのは生きかただけである。半三郎もそのた・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・ その噂が一段落着いた時、叔母は耳掻きの手をやめると、思い出したようにこう云った。「今、電報を打たせました。今日中にゃまさか届くでしょう。」「そうだねえ。何も京大阪と云うんじゃあるまいし、――」 地理に通じない叔母の返事は、・・・ 芥川竜之介 「お律と子等と」
・・・ 本間さんの議論が一段落を告げると、老人は悠然とこう云った。「そうしてその仮定と云うのは、今君が挙げた加治木常樹城山籠城調査筆記とか、市来四郎日記とか云うものの記事を、間違のない事実だとする事です。だからそう云う史料は始めから否定し・・・ 芥川竜之介 「西郷隆盛」
・・・の芭蕉を思い出しながら、何か僕の一生も一段落ついたことを感じない訣には行かなかった。のみならずこの墓地の前へ十年目に僕をつれて来た何ものかを感じない訣にも行かなかった。 或精神病院の門を出た後、僕は又自動車に乗り、前のホテルへ帰ることに・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・これで先ず一段落が着いた。詳報は解らんが、何でもよっぽど旨く行ったらしい……」とちょっと考えて「事に由るとロスの奴、滅茶々々かも解らん。今日の電報が楽みだ。」といいつつソソクサして、「こうしちゃおられん。これから復た社へ行く、」と茶も飲・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ 真蔵は自分の書斎に引込み、炭問題も一段落着いたので、お徳とお清は大急で夕御飯の仕度に取掛った。 お徳はお源がどんな顔をして現われるかと内々待ていたが、平常も夕方には必然水を汲みに来るのが姿も見せないので不思議に思っていた。 日・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
一 私は今ここに自分の最近両三年にわたった芸術論を総括し、思想に一段落をつけようとするにあたって、これに人生観論を裏づけする必要を感じた。 けれども人生観論とは畢竟何であろう。人生の中枢意義は言うまでもなく実行である。人生観・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・仕事を一段落させてから、ゆっくりお礼やらお詫びやらを申し上げようと思って、きょうまで延引してしまいました。おゆるし下さい。言いにくい事から、まず申し上げますが、あの温泉宿の支払いをお助け下さって、ありがとう存じます。たしか二十円お借りしたと・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・ 検事の取調べが一段落して、死にもせず私は再び東京の街を歩いていた。帰るところは、Hの部屋より他に無い。私はHのところへ、急いで行った。侘しい再会である。共に卑屈に笑いながら、私たちは力弱く握手した。八丁堀を引き上げて、芝区・白金三光町・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・父親の逸平もまた、これで一段落、と呟いてはぽんと煙管を吐月峯にはたいていた。けれども逸平の澄んだ頭脳でもってしてさえ思い及ばなかった悲しいことがらが起った。結婚してかれこれ二月目の晩に、次郎兵衛は花嫁の酌で酒を呑みながら、おれは喧嘩が強いの・・・ 太宰治 「ロマネスク」
出典:青空文庫