・・・そこで評議は、とうとう、また、住吉屋七兵衛に命じて銀の煙管を造らせる事に、一決した。 六 斉広は、爾来登城する毎に、銀の煙管を持って行った。やはり、剣梅鉢の紋ぢらしの、精巧を極めた煙管である。 彼が新調の煙・・・ 芥川竜之介 「煙管」
・・・……勢はさりながら、もの凄いくらい庭の雨戸を圧して、ばさばさ鉢前の南天まで押寄せた敵に対して、驚破や、蒐れと、木戸を開いて切って出づべき矢種はないので、逸雄の面々歯噛をしながら、ひたすら籠城の軍議一決。 そのつもりで、――千破矢の雨滴と・・・ 泉鏡花 「第二菎蒻本」
・・・はおわし果つまじきである、六郎殿に御世を取られては三好に権を張り威を立てらるるばかりである、是非ないことであるから、政元公に生害をすすめ、丹波の源九郎殿を以て管領家を相続させ、我が天下の権を取ろう、と一決した。 永正四年六月二十三日だ。・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・らの間の優劣を区別する場合の目標は、著者の主観によって選まれた問題の構成のしかたとその解法の選択いかんによって決定されるのであって、この優劣判断の際には、また審判者の個性のいかんによって、必ずしも衆議一決というわけに行かない場合がある。・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・そこで生徒のほうで勝手に休むことに相談一決してみんなで失敬してしまったものである。先生が教場へはいってみるとそこにはたった一人、まじめで勉強家で有名な何某一人のほかにはだれもいなかった。その翌日になると一同で物理の講堂へ呼び出されて、当然の・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・子供等もこの発見にひどく興味を感じて、帰路にもう一遍よく見定めようということに衆議一決した。 国府津と小田原の中間に「雀の宮」という駅があったようだと子供達と話していたら、国府津駅の掲示板を見ていた子供の一人からそれは「鴨の宮」だという・・・ 寺田寅彦 「箱根熱海バス紀行」
・・・そう言われて見ると成程又そうでもあると、其晩即席に自説を撤回して、又文学者になる事に一決した。随分呑気なものである。 然し漢文科や国文科の方はやりたくない。そこで愈英文科を志望学科と定めた。 然し其時分の志望は実に茫漠極まったもので・・・ 夏目漱石 「処女作追懐談」
・・・というエセーニンの詩がよまれた時に衆議一決している。だが、果して詩人エセーニンは、このコンムーナの一同が武器を揃えて、パンフョーロフが正しく描写しなかったとして攻撃している農村の集団化について、社会主義的な見方を持っていただろうか? エ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・つまりやめ時だったのだろう、という衆議に一決しています。今年の冬は私は大変寒そうです。足の冷え方が格別です。夜具が重くて、フウフウで狐の子のように落葉をかけて寝てみたい。重い病気のあとはそうですね。あなたもボタンのかかるシャツは一冬お着にな・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫