・・・ そこへ隣りの教員室から、黒いチョッキだけ着た、がさがさした茶いろの狐の先生が入って来て私に一礼して云いました。「武田金一郎をどう処罰いたしましょう。」 校長は徐ろにそちらを向いてそれから私を見ました。「こちらは第三学年の担・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・ ヒルガードは一礼して脱兎のように壇を下りただ一つあいた席にぴたっと座ってしまいました。「やられたな、すっかりやられた。」陳氏は笑いころげ哄笑歓呼拍手は祭場も破れるばかりでした。けれども私はあんまりこのあっけなさにぼんやりしてしまい・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・見るともなく見ていると、彼等は輝く禿と派手な帽子の頂とをつき合わせて睦じく献立を選んだ。一礼して去った給仕は、やがて、しゃれた脚立氷容器に三鞭酒の壜を冷し込んで運んで来た。私は、それを見ると、感じの鋭い小説家ででもありそうに自信をもって、二・・・ 宮本百合子 「三鞭酒」
出典:青空文庫