・・・お酒も、濁酒じゃないんです。一級酒に私がウイスキイをまぜたんです。」 しかし、私はそれから、その青年と仲よしになった。私をこんなに見事にかつぐとは、見どころがあると思った。「先生、こんど僕の家へあそびに来てくれませんか?」「たい・・・ 太宰治 「母」
・・・ それで、今書きながらも念い出しておかしいのは、私の一級下に、或る金持の、痩せて特徴のある表情をした令嬢がいた。その人は、いつでも靴を穿いている。而も、その靴が、子供らしい尨犬のようなのではなく、細く、踵がきっと高く、まるで貴婦人の履き・・・ 宮本百合子 「思い出すかずかず」
・・・あとになってからは、大分変化したが。一級の中でも、女の生徒同士の嫉妬や競争を刺戟しないように、ということが先で、専門学校への入学ということやその準備についてなど、教師は全く消極的であった。無事に女学校教育を終らせて、嫁入らせようとしている親・・・ 宮本百合子 「女の学校」
・・・ 例えば或る工場見学に小学校生徒の一級が出かけたとする。その記録をこしらえようとする。一級が一冊の「××工場見学の印象」というものを制作するのに、教師は決して誰それサン、作文を書きなさいとは命じない。めいめいが相談しあって、自分の一番得・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・ 買いと云う字に妙なアクセントをつけながら、笑顔とともに遠慮深く、一級の売ものをすすめているのだ。 見ていると――ほら、一人の鳥打帽の男が不自然な弧を描いて、一層低く彼の上に傾いた白羽毛飾の傍からどいた。次の通行人に頼んでいる。頼ま・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・ 孝ちゃんと、家の二番目の子が同じ小学校の一級違いだったので、一しきり垣根越しの交渉がすむと、「正ちゃん。と呼びながらグルッと表門の方へ廻って入って来る。クルッと顔から頭の丸い、疳の強い様な一寸もお母さんには似て居ないら・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
出典:青空文庫