・・・花婿は、友達と一緒に花嫁を見に来ました。神が、彼に供える犠牲の獣を選びに被来ったように、スバーを見に来た人を見ると、親達は心配とこわさで、クラクラする程でした。物かげでは、母が高い声を出して娘を諭し、人々の前に出す迄に、スバーの涙を一層激し・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・もう秋が夏と一緒に忍び込んで来ているのに。秋は、根強い曲者である。 怪談ヨロシ。アンマ。モシ、モシ。 マネク、ススキ。アノ裏ニハキット墓地ガアリマス。 路問エバ、オンナ唖ナリ、枯野原。 よく意味のわからぬことが、いろいろ書い・・・ 太宰治 「ア、秋」
・・・雨と一緒に横しぶきに吹きつける河霧がふるえ上がるように寒かった。 河向いから池までの熊笹を切開いた路はぐしょぐしょに水浸しになって歩きにくかった。学校の先生らしい一行があとから自分らを追越して行った。 明神池は自分には別に珍しい印象・・・ 寺田寅彦 「雨の上高地」
・・・遊芸をみっちり仕込んだ嫖致の好い姉娘は、芝居茶屋に奉公しているうちに、金さんと云う越後産の魚屋と一緒になって、小楽に暮しているが、爺さんの方へは今は余り寄りつかないようにしている。「私も花をあんなものにくれておくのは惜しいでやすよ。多度・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・また犬の頭をなでている女中さんも、うしろにたってみている子供たちも、一緒に林の顔を見ていた。「ええ」 すると林は、それだけだが、非常にはっきりと、顔をあげて言ったのだった。私はその瞬間、一ぺんに身体があつくなってきて、グーン、グーン・・・ 徳永直 「こんにゃく売り」
・・・ふくらし乳母も共々、私に向って、狐つき、狐の祟り、狐の人を化す事、伝通院裏の沢蔵稲荷の霊験なぞ、こまごまと話して聞かせるので、私は其頃よく人の云うこっくり様の占いなぞ思合せて、半ばは田崎の勇に組して、一緒に狐退治に行きたいようにも思い、半ば・・・ 永井荷風 「狐」
・・・たしか内藤さんと一緒に始終やって居たかと聞いている。 彼は僕などより早熟で、いやに哲学などを振り廻すものだから、僕などは恐れを為していた。僕はそういう方に少しも発達せず、まるでわからん処へ持って来て、彼はハルトマンの哲学書か何かを持ち込・・・ 夏目漱石 「正岡子規」
・・・今や我々東亜民族は一緒に東亜文化の理念を提げて、世界史的に奮起せなければならない。而して一つの特殊的世界と云うものが構成せられるには、その中心となって、その課題を担うて立つものがなければならない。東亜に於て、今日それは我日本の外にない。昔、・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・でも餓鬼大将の悪戯小僧は、必ず僕を見付け出して、皆と一緒に苛めるのだった。僕は早くから犯罪人の心理を知っていた。人目を忍び、露見を恐れ、絶えずびくびくとして逃げ回っている犯罪者の心理は、早く既に、子供の時の僕が経験して居た。その上僕は神経質・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
・・・て、沢山歩いたり、どうしても、どんなに私が自惚れて見ても、勇気を振い起して見ても、寄りつける訳のものじゃない処の日本の娘さんたちの、見事な――一口に云えば、ショウウインドウの内部のような散歩道を、私は一緒になって、悠然と、続きの菜っ葉服を見・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
出典:青空文庫