・・・空には一群一群の小鳥が輪を作ッて南の方へ飛んで行き、上野の森には烏が噪ぎ始めた。大鷲神社の傍の田甫の白鷺が、一羽起ち二羽起ち三羽立つと、明日の酉の市の売場に新らしく掛けた小屋から二、三個の人が見われた。鉄漿溝は泡立ッたまま凍ッて、大音寺前の・・・ 永井荷風 「里の今昔」
・・・空には一群一群の小鳥が輪を作ッて南の方へ飛んで行き、上野の森には烏が噪ぎ始めた。大鷲神社の傍の田甫の白鷺が、一羽起ち二羽起ち三羽立つと、明日の酉の市の売場に新らしく掛けた小屋から二三個の人が現われた。鉄漿溝は泡立ッたまま凍ッて、大音寺前の温・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・ところが茲にごく偏狭な陰気な考の人間の一群があって、動物は可哀そうだからたべてはならんといい、世界中にこれを強いようとする。これがビジテリアンである。この主張は、実に、人類の食物の半分を奪おうと企てるものである。換言すれば、この主張者たちは・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・「その方はアツレキ三十一年七月一日夜、アフリカ、コンゴオの林中空地に於て、故なくして擅に出現、折柄月明によって歌舞、歓をなせる所の一群を恐怖散乱せしめたことは、しかとその通りにちがいないか。」「全くその通りです。」「よろしい。何・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・ 同じ人物でありながら、この三人ずつの一組は、鳥居の外から中央に至り、さては上手の端の牛飼童に終る一群の人々とは、何と別様に扱われていることだろう。 画家は、画面のリズムの快よい流れの末としてこの六人を見ている。そのために、鳥居とそ・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・火野葦平が、文芸春秋に書いたビルマの戦線記事の中には、アメリカの空軍を報道員らしく揶揄しながら、日本の陸軍が何十年か前の平面的戦術を継承して兵站線の尾を蜒々と地上にひっぱり、しかもそれに加えて傷病兵の一群をまもり、さらに惨苦の行動を行ってい・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・先刻、私が屋根に認めた一群のものらしい。チョン、チョンチョンと一束にとび、しきりに粟を拾って居る。私は仄かな悦びを覚えた。けれども、その様子を見守って居るうちに、私はそぞろ物哀れを覚えて来た。 此処に、今、彼を害そうとする意志を持ったも・・・ 宮本百合子 「餌」
・・・――山上の煉瓦の中から、不意に一群の看護婦たちが崩れ出した。「さようなら。」「さようなら。」「さようなら。」 退院者の後を追って、彼女たちは陽に輝いた坂道を白いマントのように馳けて来た。彼女たちは薔薇の花壇の中を旋回すると、・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・さらにまれには、しめじ茸の一群を探しあてることもある。その鈍色はいかにも高貴な色調を帯びて、子供の心に満悦の情をみなぎらしてくれる。そうしてさらに一層まれに、すなわち数年の間に一度くらい、あの王者の威厳と聖人の香りをもってむっくりと落ち葉を・・・ 和辻哲郎 「茸狩り」
・・・私は引きつけられてじっとその一群を見まもった。そうして、遠くへ行く鈍い三等の夜汽車のなかの光景を思い浮かべた。それは老人や母親にとって全く一種の拷問である。しかし彼らには貧乏であるという事のほかになんにも白状すべきことがない。彼らは黙って静・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫